2011年大河 -姫たちの戦国-』   - 第十一回 猿の人質 -

■ さて、大河『江』の第十一話『猿の人質』、感想と歴史痛的補説の開始です。

 前回は柴田勝家(大地康雄)とお市の方(鈴木保奈美)、三姉妹にとって最大の庇護者だった大物二人が退場し、物語は悲涙落涙のてんこ盛りでしたが…さてさて、今回はどんな展開になるのやら。

■江(上野樹里)with茶々(宮沢りえ)&初(水川あさみ)
 幾らかつての主君筋の姫君とはいえ、今は亡国の人質なのにやたら態度がデカイ江。

 自分達の命、その生殺与奪の権限を握っている秀吉に対して『声に出して読め!!( ・(,,ェ)・)』は無いんじゃないでしょうか…まぁいいか、もう馴れた展開だし。

 いよいよ叔父も義父も、母親も失ってしまい…今回からは守ってくれる人々が本当に居なくなってしまった三姉妹ですが…冒頭からいきなり涙目。

 秀吉に対面して、二度も父を殺されたことを再確認してまた涙、ひと段落したかと思ったら、まぁたお市の方(鈴木保奈美)の事を思って泣いてらっしゃる。おまけにお市の方は成仏できずに亡霊状態、まだまだ登場する気のご様子。


 …―――正直、いつまで引っるんだそれ、とは思いましたが…。

 三姉妹と羽柴秀吉(岸谷五朗)と距離と確執が近く、深くなるにつれ…ようやくと言うかやっと判ったのかと言うべきか…不肖赤髭、このお姫様ファンタジック物語の楽しみ方に気づいたような気がします。

 ずばり、三姉妹の秀吉に対する傍若無人な態度と、耐える秀吉の表情や顔色の移り変わり(爆。

 じーっと見ていると、いぢめられる秀吉の表情やひょうひょうとした挙動は、三姉妹の涙ぼろぼろや秀吉の側室達との交流なんかより百倍、面白みがあるのですが…――え、何、それじゃあ三姉妹の見所にならない?ごもっとも。

 ( =(,,ェ)=)。oO( 実際、秀吉の百面相を見るだけでも大河『江』を視聴する価値はあると思うんだけどなぁ…。)

 まぁ、お市の方を思い出して涙するのは今回で封印、と言ってくれましたし、もうお涙頂戴アンコール!!な展開は無いってことでしょうから…――次回からは、茶々に眼をつけた秀吉Vs茶々with江という素敵物語に主筋が移っていきそう。

 しかし…――江の強気で上から目線の態度は、どこまで秀吉に通じるんでしょう?

 羽柴から豊臣に、大坂城が出来て太閤殿下になってもまだ『の分際で!!』とか一喝したら、それはそれで突っ込みどころとして楽しいんですが…どうなることやら。いい意味でも悪い意味でも、予想がつかない物語&歴史です…。(;=(,,ェ)=)


■徳川家康(北大路欣也)+織田信雄(山崎裕太)
 羽柴秀吉のふてぶてしい悪党振りとはまた違う、戦国武将らしいズルさと飄々さを兼ね備えた後の東照大権現・徳川家康ですが…若さゆえの血気盛んとプライドだけは一流の織田信雄との会話の温度差が見ていて楽しい(笑。

 徳川家康はこの当時、本能寺の変後のどさくさにまぎれて甲斐・信濃の大半を領国化し、いまや五ヶ国の太守。東部戦線では相模北条家や越後上杉家、そしてあの真田昌幸らとしのぎを削っていましたが、秀吉とは潜在的な敵対関係にあります。

 織田信雄は清洲会議では後継者の椅子に座り損ね、いまや意味も亡くしたライバル関係だった織田信孝を自害に追い込むのですが、だんだんと野望の牙を剥いていく秀吉の調略を受けて、尾張・伊勢の領国や家臣が離れかけています。

 とりあえず、同じ反秀吉派閥…この両者の利害は一致するわけですが…――既に秀吉と一触即発の関係、危機状態にある信雄と違い、家康はしたたかです。

 悠然と漢方薬を煎じながら信雄の怒気をかわし、誘いの手に乗ろうとしません。あの慎重さと用心深さ、冷静沈着ぶりが後に徳川幕府の礎を築くことになるんでしょう。『江』紀行でも、浅慮な無能っぷりを思いっきり暴露された織田信雄とは好対照。

 ちなみに、家康の後ろに侍っていた二人は酒井忠次と本多忠勝。
 両者とも織田信長に賞賛を受けたほどの歴戦武将ですが…はたして、お姫様の戦国物語で活躍の場があるかどうか。既に終盤戦に差し掛かった戦国時代、秀吉に相対することが出来る最後の巨頭・徳川家康の今後は要checkです。


【大河『江』歴史物語 〜物語に隠された裏事情@〜】

■医者嫌いの薬好き、徳川家康の意外な趣味
さて、縁側で悠々と薬草の選別をしながら織田信雄と体面した徳川家康。
 
 なにやら異様な成分の鎮静薬を薦めて、盛大にリバースさせてましたが…実は家康は大変な健康マニアで、普段から食事に気をつかうことは勿論、様々な薬効のある薬草を集めて『自作の漢方薬』を煎じることを趣味としていました。

 ( -(,,ェ)-)oO(そういう点では、歴史軽視の『江』も深いポイントを採用してる気がしなくもない。)

 『医者嫌いの薬好き』と言えば、戦国時代では徳川家康のこと。 

 ただの趣味ではなく、漢方薬に関しては本当に医者顔負けの知識がありました。
 『本草綱目』(ほんぞうこうもく)という明朝の漢方医学書を独学で勉強し、強壮剤や風邪薬、はては虫下しや媚薬の調合まで心得ており、なにか体調不良を感じたときには直ぐに症状に合わせた漢方薬を調合、自力で病気を治していたそうです。


 風邪は万病のもと、だなんて言葉もありますが…『紫雪』(しせつ)と銘打たれた家康謹製の風邪薬は効果ばつぐんと大評判で、江戸幕府が開かれると各国諸大名は紫雪の調合方法をこぞって知りたがったとか。


 しかし、例によってドがつくケチである家康のこと、滅多に自作の漢方薬を他人に与えることはありませんでした。

 
 晩年は秀吉よろしく性欲が旺盛になり、ローティーンの美少女ばかりを寵愛した徳川家康ですが…お気に入りの側室が寝込んだって、知らん顔だったそうです。

 自作漢方薬がいっぱいに詰め込まれた薬棚を肘掛がわりにしながら、平気な顔で
 
『ふーん、医者に診せたら?』
 
 と言い放ったそうですから…うーん、東照大権現様ったら本当に吝嗇家。(;-(,,ェ)-)


■覚えとけよ、秀吉!!…悲劇の貴公子最後の咆哮
 今回、織田信雄によって切腹させられた悲劇のプリンス・織田信孝。

 彼が織田信長の三男、長兄の信忠や次兄の信雄とは腹違いの兄弟であることは前にもお話したとおりですが、彼の最期は『江』で語られたような、さらっとしたものではありませんでした。
 
 1583年(天正十一年)、烏帽子親であり後ろ盾であった柴田勝家が賤ヶ岳の合戦で羽柴秀吉に破れ、北ノ庄城で滅亡すると織田信孝は孤立無援となり…まもなく兄・信雄の軍に岐阜城を取り囲まれてしまいました。
 
 敗北を悟った信孝は降伏して岐阜城を明け渡し、故郷である尾張国・内海(うつみ)に逃れていましたが…ここで羽柴秀吉が織田信雄に信孝の処断をささやきかけ、口車に乗せられた信雄はこれを承諾。
 
 まもなく信雄の軍が強襲し、内海から野間大御堂寺(のま-だいみどうじ)で蟄居していた信孝に切腹を迫ったのですが…信孝は、この仕打が羽柴秀吉の謀略であることをちゃんと見抜いていたようです。

 1583年(天正十一年)5月2日、織田信孝は大御堂寺で切腹。信長の子供達の中でも将器に恵まれ、将来を嘱望された貴公子は享年二十六歳で世を去ったのですが…彼の辞世の句は、次の通り。

   昔より 主を内海の 野間なれば
         報いを待てや  羽柴筑前

  …―おっそろしいほど、信孝の怨念が伝わってくるような辞世です。



 どの変が怖いのかといえば…えぇ、まぁ…『風が吹いたら桶屋が儲かる』なみに遠回りの話になるのですが、少々説明をば。( ・(,,ェ)・)ノ
 


 戦国時代を遡ること四百年前、源平合戦より少し前頃の話なのですが…京都で平家の棟梁・平清盛と源氏の総領・源義朝が争い、平家が勝利する事件がありました(平治の乱)。
 
 この時、敗れた源義朝ら落人一党が本拠地の東国に逃れるため、尾張国を通ったのですが…――その途中、野間の領主がかつての源氏党で、義朝家臣の舅にあたる長田忠致(おさだただむね)だった為、休憩に立ち寄ることにしました。

 
 …しかし、忠致は『いま、ここで義朝を討って首級を平家に差し出せば、出世栄達は間違いなし!!』と心変わりを起こし、入浴中だった義朝を暗殺、落人一党を皆しにしてしまいました


 
 しかし、おごれる平家は久しからず、盛者必滅が世の理。
 


 後に源氏は義朝の四男・源頼朝の下で再興され、逆に平家は衰退。


 今度は源氏が飛ぶ鳥を落とす勢いになったのですが…――頼朝はどういうわけか、父の仇・長田忠致を処罰しませんでした。
 

 それどころか、

頑張って平家を倒したら、お前に美濃(現岐阜県南部)・尾張(現愛知県西部)をくれてやる。』と約束。

 間違いなく殺されると思っていた長田忠致、喜びいさんで源氏方につき、必死になって平家討伐で戦ったのですが…。
 


 後に平家が壇ノ浦で滅ぶと、源頼朝は長田忠致を呼び出し…いきなり『腹せよ!!』とまさかの死刑判決。
 

 驚いた忠致、『約束が違う!!』と青い顔をして叫んだのですが…この泣き喚きを聞いた頼朝、怖い顔をして…――こう言ったのです。


何をいう。わしは言ったではないか…お前に"みのおわり"(×美濃尾張 ○ 身 の 終 わ り )をくれてやるとな。



■…という因果応報な物語が、尾張国の内海・野間を発祥としていたのです。
 これを知っていた織田信孝は、辞世の句でこの故事を示し、羽柴秀吉に怨念の呪詛を残して切腹していったというわけです…。( ;・`ω・´)

 『昔からなぁ、主君を殺すようなやつ(主を内海=あるじを討つ身)は、必ず因果が巡ってくるんだよ。羽柴筑前守秀吉、お前も覚えておけよ…――貴様も必ず、この報いを受けることになるってことをなぁああぁああぁあ!!』





■羽柴秀吉(岸谷五朗)withおね (大竹しのぶ)+京極竜子(鈴木砂羽)
 登場していきなり、みっともない男泣きの醜態からの登場。やっぱり、今年の大河の秀吉は異色です(苦笑。…―お市様Love過ぎるのはよーく判りますが、こんなに表裏がはっきりし過ぎるし俗物過ぎる秀吉というのも珍しい。

 茶々の凛とした剣幕に見とれて口を開けっ放しになり、おねの手によって"歯が『こつん!!』と鳴るほど"強く口を閉められたシーンでは、不覚にも笑ってしまいました。( ・(,,ェ)・) さすがおかかさま。

 相変わらず、三姉妹に言いたいように罵倒されるわ砂をぶつけられるわ、信長の面影を江に見、目を剥いて仰天するわで…今のところ、秀吉には何一ついいところはありません。

 が…この猿面冠者がどんな出来事を機に豹変していくのかは、赤髭も注目しているところ。


 そして、そのひょうきん愉快な秀吉の脇を固める女性陣ですが、これも秀吉に負けず劣らずの存在感。

 江の振る舞いや言動は正直、見ていて『戦国大河』って感じがしませんが…この二人の落ち着いた立ち居振る舞いを見ていると、今さらながら視聴している番組が『大河ドラマ』であることを思い出させてくれます。

 おねの落ち着いた雰囲気や、その彼女を前にしても本音を隠さず朗らかに話す、笑顔が素敵な京極竜子。よくよく考えればこの二人、三姉妹の何人かにとっては後年、笑顔でこんなお話をしてる場合じゃないほど対関係になるはずなんですが…今後はどういう風に関係が移り変わっていくのか、それも楽しみのひとつではないかなと思います。


【大河『江』歴史物語 〜物語に隠された裏事情A〜】

■京極竜子さんって、誰?

 京極家は、室町幕府で『(ししき。室町幕府の侍所所司という重職に就くことが出来る四大名門家で、他の三つは赤松家・山名家・一色家。)という重臣に数えられた宇多源氏の名門。ご先祖様に大河『太平記』でも登場し、陣内孝則さんが熱演した婆沙羅大名(BASARAばさらだいみょう)・佐々木道誉が居ます。

 かつては近江国北半分や飛騨国(現岐阜県北部)や出雲国・隠岐国(現島根県東部・隠岐島)など、数カ国の守護職を歴任する一大勢力でした。


 しかし、応仁の乱を経て戦国時代に入ると京極家は急速に力を失い、室町幕府と一緒に弱体化。

 北近江の支配権も浅井(あざいすけまさ。 浅井長政の祖父で、三姉妹にとっては曽祖父にあたります)の下剋上によって奪われてしまい、織田信長が台頭する頃には幕府の一官僚として細々と命脈を繋いでいるような落ちぶれようでした。

 ということは、竜子にとって三姉妹は浅井一族、京極家が没するもとになった謀反人の曾孫、ということになります。( ・(,,ェ)・)


 京極竜子は京極高吉(きょうごくたかよし) とその室・マリア(????〜1618 マリアはキリスト教入洗の際に得た洗礼名。)との間に生まれました。
 生年は不詳ですが、京極夫婦の長男が1563年生まれですので、それ以降ということになります。

 母のマリアは浅井久政(あざいひさまさ、浅井長政の父親。『江』では第一回で登場、ムスカ大佐寺田農さんが好演。) の娘とされていますので、三姉妹にとっては劇中にもあったとおり、従姉妹にあたります。

 竜子、という名前に負けない勝気な性格と美貌で知られ、後に三姉妹のうちの一人が『ある武将』の寵愛をめぐって激突することにもなります。



 父・高吉は室町幕府十三代将軍・足利義輝やその弟・十五代将軍足利義昭に仕えていた幕府高官でしたが、織田信長と足利義昭の仲が悪くなるとあつれきを避けて隠居。

 竜子は若狭国(現福井県西部)の守護職・武田元明(たけだもとあき)の正室として嫁ぎました。

 しかし、武田元明は本能寺の変の際に明智光秀に味方して羽柴秀吉と敵対、山崎の合戦後には秀吉より切腹を申し付けられます。

 この時、実は京極家も明智光秀の家臣となっていたのですが、京極竜子は実家が処罰を受ける前に秀吉の側室になることを申し出、気をよくした秀吉は京極家をお咎めなしの処分に。竜子は実家を守るために、宿敵の側室にわが身を自薦したわけです。


 1583年(天正十一年)の初登場の時点で、京極竜子の推定年齢は十代後半〜二十歳。

 三姉妹の前では平然と『側室になったの、秀吉って面白い人だしー♪』みたいなことを言っていた竜子さんですが、実はあの笑顔の裏で京極家を滅亡の淵から救っていたことになります。

 なお、彼女には京極高次(きょうごくたかつぐ)という兄が居るのですが…この高次、三姉妹の誰かにとって、とても重要な人物となります。

 ネタバレ防止のために今は伏せておきますが…――ぁあ、絶対尻に敷かれるんだろうなぁ、多分。( =(,,ェ)=)


■ さて、今回もリベラルを装った歴史痛視点(蹴)での感想でしたが…いかがだったでしょうか。

 次回予告では、いよいよ羽柴秀吉の邪心が三姉妹を毒牙に掛けんと襲い掛かります。茶々の美貌に欲望を隠さない猿面冠者の怪しい視線。果たして江は、今週みたいに威厳たっぷりに秀吉を罵倒し、姉の身と心を守りぬくことが出来るのか。

 個人的には、そろそろ羽柴秀吉の黒過ぎる野心やそれに立ち向かう茶々の挙動、千宗易(石坂浩二)に『秀吉をしてやりたい』と吐露した言葉、それによって起こる波風に期待したいところですが…――果たして、どんな展開に転ぶのか、どう予想を裏切ってくれるかは…今から楽しみなところです。

2011年大河『江』第十二回 茶々の反乱 感想と解説





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