2011年大河 -姫たちの戦国-』   - 第十五回 猿の正体 -

さて、赤髭がしつこいくらい強調するまでもなく…ここ数年は歴史痛や古い戦国Fanもびっくりなほどの戦国ブーム( ・(,,ェ)・)。


 当然、我らがNHKも戦国歴史に関する番組を数多く制作・放送しているわけですが…大河『江』が戦国歴史を刺身のツマ程度の背景事情として流しているのに対し、他の戦国時代モノは驚くほど丁寧でわかりやすく歴史を説明してくれています。
( -(,,ェ)-)oO( …と、いうか…『あっちで判らないことはこっち見て補足してね!!』とでも言っているかの様ですが。 )

 たとえば、『歴史秘話ヒストリア』シリーズ。

 戦国時代に特化している番組ではなく、様々な時代の歴史を再現ドラマや専門用語を用いない判りやすい説明で紹介していく番組です。

 最近も『徳川家康』の生涯を題材にした回がありましたが、大河『江』では今のところほぼ外野席である徳川家康、後の天下人である東照大権現の生涯を的確に、色んなエピソードを踏まえて簡潔にまとめていました。短時間で簡潔に、判りやすい。歴史初心者にはうってつけのコンテンツと言えます。

( -(,,ェ)-)oO( そうかと思えば、たまに歴史痛(笑)でも押さえてないような深い場所や斬新な切り口でざっくりと歴史を解析していたり、わりとマニア嗜好な面もあったりしますが。 )

 『戦国時代や戦国武将に興味はあるけど、本屋さんに置いてある戦国モノの本はとっつきにくいか萌え特化で、勉強にならない。』とお考えの人には、是非お奨めしたい番組です。

 放送時間や再放送の日程などについての詳細は下記ホームページで御確認ください。

■歴史秘話ヒストリア(NHKホームページ)
http://www.nhk.or.jp/historia/


 ■ さて、それでは今回も毎度一週間遅れで大河『江』の第十五話『猿の正体』、感想と歴史痛的補説の開始です。
 
 前回の江姫様(上野樹里)、秀吉の勝手な策略で織田−羽柴間の婚姻外交のお雛様になったと思ったら、相手は素敵なお殿様。これは倖せになれそう…とか思ったら、今度は嫁ぎ先もろともそれをぶっこわされちゃいました。

 終盤に登場した黒さ168%増の羽柴秀吉(岸谷五朗)の狡猾さには女性視聴者の皆様はブラウン管に石でもぶつけたくなるほどヒートしたことでしょうが…タイトルからして思わせぶりな今回。いったい、猿の正体とは何なのでしょうか。

 (*-(,,ェ)-)oO( 今週も、驚きの黒さに期待大。 )


■羽柴秀吉(岸谷五朗)&江(上野樹里)
 …黒さに期待、でしたが…まさかここで『タイトル詐欺』な悪党秀吉の名誉挽回の展開。( ・(,,ェ)・)

 …――このタイミングで猿面冠者にデレられても、女性観点からして秀吉を許せるような理由なんだろうかこれは。

 久々に織田信長(豊川悦史)背後霊も登場して、ひたすらローティーンの×1小娘に圧倒されまくる羽柴秀吉。まぁ、この描写も新しいっちゃあ新しいですが…これが私なら、泣きもするでしょうが確実に秀吉の顔へ左ジャブか右フックをぶちこみそうな気がしなくもない。( -(,,ェ)-)


 前回まで『これでもか、これでもかッ!!』と重ねまくっていた秀吉悪漢描写に全部複線の釣り針を引っ掛けておいて、今週で一気に竿を引っ張って釣り上げた、ということなのでしょうが…個人的には、秀吉には三姉妹にとって憎悪と復讐の対象であり続けて欲しかった。

 この按配なら、次週あたりに登場するEXILEの顔を見る頃には三人揃って秀吉シンパになってそう。凝り固まられても面白くはないですが、お三方、二回続けてお父さんを破滅においやった猿面冠者にそんなあっけなく陥落させられて良いんですか。( ・(,,ェ)・)


 そしてやっぱり今回も涙。

 いや、そりゃあ悲哀たっぷりで戦国武将の都合のサジ加減ひとつで振り回されるなんて…十二〜十三歳の小娘には耐えられない事態なのは判るんですが、涙の数だけ強くなれるっつったってこう頻度が多くては花もアスファルトでしおれますよ。

( ・(,,ェ)・)oO( 赤髭的には、大河『風林火山』の第二十八話で甘利虎泰(竜雷太)が血の泡吐きながら死んでいった場面のほうが百倍涙腺が緩む。悲劇も効果的な使い方をしてもらわないと。 )

 あと、今回になってやっと秀吉陣営の武将…っていうか親族縁者が何人か顔を出してくるようになりましたが、既に何の説明もなく於義丸こと羽柴秀康(山田健)が部屋に居たのにはびっくりしました。

 徳川陣営ももうちょっと時間を割いて描写するのかと思いきや、いきなり『次男なのに人質』とか言われても、何がどうしてそうなったのかという事情も聞いてませんし…。


 あと、これも毎度のこと過ぎて既に諦め半分ですが…紀伊討伐や四国の長宗我部元親征伐に関してもあっさりし過ぎ。

 今回はとうとう、具足姿の羽柴軍が敵の城に向かって『ワー!!』というシーンすらありませんでした(まぁ、主要キャストが全員大坂城に居るんで仕方がないといえば仕方ありませんが)

 この頃には既に織田信長の後継者、天下覇者の席には秀吉の尻が確実に据わりつつありますから、余計な説明をしなくっても物語に支障はありませんが…せめて市(鈴木保奈美)のナレーションで良いから時代の流れを触っておいても、戦国時代を題材にしてるんですから罰はあたりゃあしないと思うのですが…―――まぁ、仕方ありませんか。
( =(,,ェ)=)


 物語の雰囲気がまた、以前のようなお涙頂戴倍プッシュな展開に戻りつつある大河『江』。

 次週は、江いわく『嘘のなかにまことがある』猿面冠者が一気に天下人へと官職の出世栄達を駆け上っていく展開となりそうですが…いったい三姉妹はどんな心模様で、天下の情勢や秀吉の横顔を眺めるんでしょうか。( ・(,,ェ)・)

 ( -(,,ェ)-)oO( 物語の展開から言って、次週はまた黒い秀吉に戻ってくれそうな期待感はありますが。 )

【大河『江』歴史物語 〜物語に隠された裏事情〜】
■袋に禿げネズミを追い詰めろ!!狸が描いた絵の中の餅、秀吉包囲網の結成とその破綻。
 さて、劇中ではまったくといって良いほど語られない戦国歴史の背景事情。

 いったいどうして、秀吉は紀伊を攻めたり四国の長宗我部元親を攻撃しなければいけなかったのでしょう。実は前回の『小牧・長久手の合戦』前後の頃から、得意顔の猿面冠者を追い詰めるべく、徳川家康が様々な布石を打っていたからなんです。

 今回、いつのまにか次男の秀康を人質同然の養子に突き出し『一応の』和睦としていた徳川家康ですが、実は本能寺の変以降は一貫して反秀吉派閥でした。

 『神君伊賀越え』で必死に浜松へと逃げ帰った家康、実はその直後に明智光秀討伐軍を編成し、尾張国の鳴海城(現愛知県中央部)まで到達していましたから、実は立派に織田信長の後継者候補だったんです。

 ほとんど家来同然だったとはいえ徳川家は織田家のパートナーである同盟者、言ってみれば織田-徳川政権の共同経営者。

 それを寸前になって『ただの支社長』だった猿にあぶらげをさらわれた格好になってたんですから、面白くないのは当たり前です。
 
 しかし、かと言って家康が単独で秀吉に噛み付くには大義名分が要りますし何より地盤や軍事力で劣ります。そこで、家康は秀吉を取り囲んでいる様々な勢力と手を組み、『羽柴秀吉包囲網』を結成していたのです。


 まずは、秀吉の本拠地である大坂城を牽制するために近畿附近の勢力と同盟。

 それが、今回秀吉に討伐されることになった紀伊国(現和歌山県)の武装勢力、鉄炮傭兵として天下に武名を知らしめていた『賀・来衆』。

 そして、大阪湾と紀伊水道を隔てた海の向こう、四国の覇者となりつつあった長宗我部元親でした。

 この二勢力は徳川家康にとって同盟相手では最も頼りになりました。

 小牧・長久手の合戦では徳川家康が秀吉にとって前面の虎、長宗我部家・雑賀衆が後門の狼となり挟み撃ちを形成。

 秀吉が全力で家康や織田信雄を叩き潰せなかったのは、彼らが大坂城を攻撃しようと企んでいたためでした。

 いくら大坂城が堅固とは言え、守る兵士が居なければ陥落してしまうでしょうから。



 次が越中国富山城(現富山県)佐々(さっさなりまさ 1539〜1588)。


 成政は織田信長の家来でも黒母衣衆(くろほろしゅう)と呼ばれたエリート集団の筆頭格で、柴田勝家の寄騎(よりき。早く言えば支社長の元に出向した本社の職員)を勤めましたが、本能寺の変以降は越中富山城主としてそのまま勝家に所属。


 賤ヶ岳の合戦では越後上杉家の抑えとして富山に留まったため滅亡を免れましたが、秀吉派閥となった前田利家を憎んで富山で独立勢力化。

 もともと秀吉とは反りがあわなかったらしく、家康による秀吉包囲網の一環を担うことになりました。

 小牧・長久手の合戦では徳川家康と織田信雄の挙兵に呼応して加賀国を攻撃、前田利家の心胆を寒からしめる活躍をしています。小牧に前田利家が来なかったのは、この成政があったからこそ。

 そして最後が、相模小田原城(現神奈川県)の
北条(ほうじょううじまさ 1538〜1590)です。

 氏政は大河『風林火山』に登場した北条氏康(松井誠)の嫡男で、当時関東地方に二百万石近い大勢力を誇る戦国大名でした。

 実は家康とは仲良しどころかかつては敵対関係で、信長死後に空白地帯となっていた甲斐国・信濃国争奪戦を繰り広げた宿敵でした。


 家康が秀吉包囲網を構成したのが柴田勝家滅亡後だったのは、この北条家と争っていたからです。

 『天正壬午の乱』(てんしょう-じんごのらん)と呼ばれたこの甲信地方争奪戦は越後上杉家・相模北条家・北信濃真田家・そして徳川家が入り乱れた結果、その大半が家康の手に落ちたのですが…ちょうどこの頃に秀吉との対立が表面化。


 家康は北条氏政と同盟関係を結び、娘の督姫(とくひめ)を氏政嫡男・北条氏直と婚姻させることで一転、和睦して同盟関係に。
 
 北条家と手を組むことで後顧の憂いを絶ち、また親秀吉派閥で越中の佐々成政と敵対していた上杉景勝をけん制してもらう。

 この日本半分近い大同盟を組むことで、家康は秀吉を泥沼の持久戦へ引きずり込もうとしたのです。




 秀吉が徳川・織田信雄を攻めれば大坂城を雑賀・長宗我部が襲い、秀吉が西を攻めるようなら家康と信雄が近畿を攻撃し秀吉のむなもとにくらいつく。

 秀吉を助けようとする前田利家や上杉景勝は佐々成政や北条氏政が背後を襲って足止めをする。

 さらに家康は信長の遺児・織田信雄を旗頭にしていますから、秀吉に従っている旧織田家家臣の離反すら期待できる。

 
 秀吉にとっては八方ふさがりの大作戦。家康は戦線を五年十年の大延長戦にもちこむことで秀吉を疲弊させるはずでした。


 はずだったの、ですが…。
( ;・`ω・´)



 前回、この一大作戦で最重要課題だった『秀吉を攻撃するための大義名分、錦の御旗』である織田信雄があっさり秀吉と和睦。


 仲直りをしてしまったため、家康には秀吉と喧嘩をする理由がなくなってしまったのです。どうやら織田信雄には、家康が描いた作戦の意図が読めてなかったようです。


 講和が成立したあとの、秀吉の行動はまさに迅速果断でした。


 まずはちょこまかと大坂城にちょっかいを出す紀伊の雑賀・根来衆を攻撃、圧倒的な戦力差でこれを粉砕し、雑賀衆の統領・雑賀孫一は降伏。

 根来衆も本拠地の根来寺を焼き打たれて事実上のギブアップ。

 さらに翌1585年には四国を制覇した長宗我部元親を攻撃、弟・羽柴秀長を総大将とする総勢十三万という桁外れの軍勢であっというまに阿波・讃岐・伊予の各国を攻略。


 元親は白旗を上げざるをえなくなりました。越中の佐々成政もまもなく秀吉に敗れ、剃髪をしてその軍門に下りました。


 かくして、家康の『禿げネズミを袋に突っ込ませる大作戦』、秀吉包囲網は小牧・長久手合戦終了後一年足らずの短期間であっけなく瓦解。

 次男の於義丸を人質同然の養子に大坂城へ送ることで、事実上の『秀吉包囲網』作戦の失敗となり、しぶしぶの和睦となります。


  

 まさに、機略と人間観察力に長けた羽柴秀吉の面目躍如。江たち三姉妹が大坂城でああでもないこうでもないと一喜一憂している間に、天下ではこんな出来事が起きていたのです。


 しかし、『鳴くまで待とう不如帰』の家康がとった作戦は持久戦狙いの大包囲網、
 『鳴かせてみよう不如帰』の秀吉が狙った策は、普通なら絶対『よっしゃ』というはずがない敵方の大義名分の一本釣り。

 このあたりに、性格の違いがよーく出てますよねえ…。( ・(,,ェ)・)



■ さて、今回もリベラルを装った歴史痛視点(蹴)での感想でしたが…いかがだったでしょうか。

 さて次回予告ではついに秀吉の代名詞・関白の文字が登場。武士としての最高権力、織田信長ですら届かなかった最高峰に秀吉が挑みます。

 実に第一回以来の登場となる足利義昭(和泉元彌)が登場していましたから、秀吉と義昭との間に起きた有名なエピソードを再現する展開になりそう。

  果たして、戦国一番の成り上がり・羽柴秀吉の出世物語の『あがり』とはいったいどんな名誉なのか?


 『てっきり、第一話だけのスポット出演だと思っていた和泉元彌の足利義昭が再登場』というのは歴史痛の嗅覚が刺激されます。『あのエピソード』が再現されることは多分確定なので、珍しく歴史Fanには見ごたえのある回に…なりそう、かなぁ(弱気

2011年大河『江』第十六回 関白秀吉 感想と解説





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