2011年大河 -姫たちの戦国-』   - 第十七回 家康の花嫁 -

第十七回の視聴率は20.7%でした。ここ数回は内容もそれなりに良かったにも関わらず視聴率はまた10%台半ば、前回は15%という数値でしたが…EXILEのAKIRAさん登場を受けてのことか、久々に20%台を回復しました。

先週の視聴率
http://www.videor.co.jp/data/ratedata/top10.htm

 お姫様至上主義の歴史考証ムニャムニャでファンタジーという戦国歴史Fanには早すぎる、
  毎回見どころの楽しい脚色をしてくれる脚本家の田渕さんは『豊臣秀勝はAKIRAさんが配役されることを見越して脚本を書いた。イメージ通りの演技振り』と絶賛していただけに『これで視聴率あがらなかったらいったいどんな顔するんだろう』とか意地悪く考えてましたが…この数字であれば、あんまり認めたくはないですが制作陣の目論見は成功裏、と言わざるを得ません。( ・(,,ェ)-)


 ■ さて、それでは気をとりなおして…今回も一週間遅れで前回の物語を本放送前夜におさらいする意味も含めて…大河『江』の第十七話『家康の花嫁』、感想と歴史痛的補説の開始です。

 前回では『もうどーにでもなれよこの猿面冠者。』と言わんばかりに適当なアドバイスをしているつもりだった江(上野樹里)の言葉を羽柴秀吉(岸谷五郎)がいちいち120%以上把握し、人並み外れた行動力と実行力でそれまでの常識を次々と脱線・転覆、破天荒に駆け抜け…ついには『非藤原家、武家の出身でもない平民初の関白』という前代未聞の栄達を登り切りました。

 故郷・尾張中村から久々にやってきた家族達とこの幸せを分かち合い、抱き合って喜ぶ秀吉。敬慕する叔父・織田信長や義父・柴田勝家を討ち滅ぼした憎き仇敵であるはずの秀吉を前にほんろうされる姫君達の運命はいかに。(;-(,,ェ)-)


■羽柴秀吉(岸谷五朗)with羽柴秀勝(AKIRA)
 今回からようやく髭をたくわえた秀吉。金銀が煌めき輝く大坂城をバックに、莫大な財力と古今まれに見る行動力と野望を秘めた猿面冠者らしい、ますます赤髭好みの陽気な悪役ぶりに磨きが掛かった回でした。(*-(,,ェ)-)



 その秀吉と対をなす存在が、今回初登場した羽柴秀勝(AKIRA)。


 本放送が開始されてから発表されるという、07年大河『風林火山』をほうふつとさせる鳴り物入りで初顔見世となりましたが…。

 …――いやはや、血の繋がった叔父-甥ながら素晴らしいほど似てませんね。いや、そりゃあ世の中、全然顔立ちも性格も違う親族は確かに居ますけども。( =(,,ェ)=)


 羽柴秀勝の母は秀吉の姉・ともですが、夫は三好吉房という武将。

  加藤清正もかくやという見事な大髭の持ち主であった他は何も取り柄がない人物だったようですが、こんな美形の子が出来るような美貌だとは聞いていません。ちなみに、いつぞやの回で泥酔した状態で江と遭遇、がなり散らしながら廊下向こうに立ち去って行った羽柴秀次とは実の兄弟。

  まぁ、江にとって将来重要な関係をもつ人物となるため、ここはゲゲゲの旦那の方にまけない好印象とインパクトを与える俳優さんじゃなきゃいけないってのは良ぉくわかります。( ・(,,ェ)・)


 まぁ、赤髭の第一印象としては『なかなか堂に入った戦国武将振りが出来る俳優さん』となかなかポイントは高かったりしますが。今回、トヨエツ信長や大地康雄さんの柴田勝家など主要キャスト以外はどこか定番通り・もしくは雰囲気負けしてる武将が多かった感じがあるのですが、AKIRAさんの秀勝はさわやかな笑顔や(本業でもある)良く通った声、立ち居振る舞いが印象良く出来上がっていたように思います。

 岸谷秀吉が飾らない、素の人間の狡猾さや心の奥の優しさ、生くさいまでの出世向上欲を隠さない三枚目振りなのに対し、こちらは文字通りに貴公子然とした青年武将といった感じ。

( ・(,,ェ)・)oO( 初登場から髭を置いてるというのも戦国歴史Fanとしては地味に嬉しい点だったりもします。 )

 既に半分陥落しかけてる茶々(宮沢りえ)と違い、いまだ羽柴一門にかたくなな敵愾心を持っている江の心を今後どういうふうに解きほぐしていくのかが気になるところです。


 『なんだ、また人気取りの客寄せパンダをキャスティングしたのか』とか思ってましたが、今後は秀吉同様、赤髭にとっては気になる武将が登場したような気がします。



【大河『江』歴史物語 〜物語に隠された裏事情〜】
■親族すらも駒に使う秀吉、その非情な顔に隠された愛情【前編】

 さて、今回もう一つの見どころといえばやはり、秀吉と家康が繰り広げる駆け引きの心理戦。

 正室を失って久しい徳川家康に既婚であった妹を離縁させてまで政略結婚させたり、それでも不満な様子の家康にだめ押しといわんばかりに実母まで人質に差し出した秀吉の外交カードは、親族すらも駒として使い、場合によっては斬られるかもしれないという最悪の可能性すら匂わせる非情の選択肢。





 『秀吉って人は本当に、目的の為には手段を選ばないんだな。』と、視聴者の皆さんは今回最終盤のあのシーンを見るまで思っていたことでしょう。




 しかし、今回終盤に秀吉が言葉や表情に滲み出させたように、実際は他の戦国武将には見られないほどに家族思いで親孝行者な武将なんです。




  たとえば、今回初登場した羽柴秀勝(AKIRA)の名前について。


 江たち三姉妹は、彼の名前がかつて秀吉が信長より養子に貰っていた織田秀勝と同名なことにたいし憤りと嫌悪感を隠しませんでしたが…―――実は秀吉がこの『秀勝』という名前を我が子に名づけたのはこれが度目です。

 …―つまり、ややこしいことですが『秀吉の子供(養子)には、秀勝が三人居る』ことになります。戦国歴史ではそれぞれ同姓同名であるため区別をするのに幼名+秀勝と呼んで判断しています。



 まずは、石松丸秀勝(いしまつまる-ひでかつ)

 秀吉が初めて授かった子供で、ほかの二人が養子だったのに対しこちらは実子でした。


  生まれたのは秀吉がまだ織田家の家臣、北近江長浜城の城主だった頃のことで、側室の南殿(みなみどの)という女性の間にもうけた子供でした。秀吉にとって初の子で、正室・ねねとの子供ではなかったものの、秀吉の喜びようは大変なものだったそうです。

 しかし、この石松丸秀勝はわずか七歳で病死。秀吉が悲嘆にくれたのは相当なもので、そのあまりの哀れさには家臣たちは勿論、正室のねねも何と声をかけたらよいか戸惑うほど。


 その哀れで悲愴な有様の秀吉に、織田信長が四男の於次丸を養子として送ってやったのです。



  この二番目の秀勝が於次丸秀勝(おつぎまる-ひでかつ)で、大河『江』でも一度だけ顔を見せています。

 主君から貰った養子に、先に生まれた庶子の名前『秀勝』をもう一度つけたというのは、見方によれば不敬なことにも感じられますが、実はこれは秀吉の親心。

 現在の日本と違って、戦国時代に生を授かった赤子が母子ともに健康に成長するのは非常に幸福なことだったのです。食糧事情や医療技術が悪く、長く続いた戦乱のせいもあって誰かに殺されてしまうことも珍しくなかったご時世。

  子だくさんに恵まれても、無事に成人にこぎつける子供はそれほど多くはなかったのです。
  秀吉も、当時最強最大の企業であるはずの織田財閥支社長でありながら初の子供に夭折されてしまいました。

 こういうとき、親は次に生まれてきた子供に『先に死んでしまったあの子の分まで長生きするように』と、名前を受け継がせたり足したりする慣習がありました。

  『次郎三郎』とか『四郎次郎』とか、戦国武将にはときおり『二人分の名前を足したような』幼名を持つ者がいますが、これはそういった親心の願いを込めた名前だったわけです。



 けれども、せっかく織田信長から賜った忘れ形見・於次丸秀勝も十八歳の若さで病死。

 
このときには、秀吉も前の石松丸秀勝の死をまたぞろ思い出して、ふたたび悲嘆にくれたことでしょう。


 そこで、今度こそ…という願いを込めて…既に秀次を貰っていた姉夫婦からもうひとり、小吉を養子に迎えて『秀勝』を名乗らせることにしたのです。

  この小吉秀勝が、今回登場したEXILEのAKIRAさんが演じる『羽柴秀勝』、一般には小吉秀勝と呼ばれる三人目の秀勝になります。


 戦国武将数多しといえど、同じ名前を三人の子供に名乗らせたという例はこの『秀勝』を置いてほかにありません。

  羽柴秀吉という武将がどれだけ失った我が子を思い、その死を忘れないためにこの名前を伝承させていったのかがよくわかるエピソードと言えます。


2011年大河『江』第十八回 恋しくて 感想と解説




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