2011年大河 -姫たちの戦国-』   
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【戦国歴史をリアルに楽しく疑似体験するシリーズ】
私をイクサに連れてって Vol.3【武器防具/前編】

 with 大河『江』第二十五回 愛の嵐 -


 【戦国歴史をリアルに楽しく疑似体験するシリーズ】私をイクサに連れてって Vol.3【武器防具/前編】

 さて、今週も【戦国歴史をリアルに楽しく疑似体験するシリーズ】を御案内いたします。


 今までにないロングラン熱狂人気を維持し続けている戦国乱世ブーム。

 けれど、その熱い闘いの系譜で語られたいくつもの事実や知られざる秘話は、残念ながら現代日本では忘却されがちだったりします。


 そこで、そんな乱世と闘争の支配した荒々しくも魅力的だった戦国時代の常識・非常識を歴史痛が適度に吟味。
 某・出来と評判のよろしくない大河ドラマが敢えて眼中にしていない荒ぶる戦国武将たちの檜舞台・戦国乱世 の合戦現場に皆さんをご招待。

 

 不肖赤髭が三十と少しばかりの人生で無駄に獲得した戦国知識を駆使して、平成現代の若い戦国Fanが強い憧れを示す乱世がいったいどんなものなのか、それを楽しく学んで疑似体験して頂くコーナーです。


 自他共に認める膨大なうんちくを社会的常識を代償としている典型的な戦国歴史痛である赤髭がご案内するからには、そこは当然…信ぴょう性に格差はあれど広範囲に渡るトリビア的知識を駆使して、なるべくリアルで時 代考証に沿った内容で戦国乱世の合戦場、その真実をご案内する歴史コラムに仕上げるつもりです。


 しかも、ありがちな『戦国武将として』ではなく、一介の雑兵として…――戦国歴史ゲームやドラマでは教えて貰えない真実の光と誤解の闇も仔細もらさず紹介していく企画『私をイクサに連れてって』。


 全何回の予定になるかは例によって決まっていない戦国歴史を学ぶシリーズ、今回はいよいよ戦場に赴く雑兵が生死を預けるその獲物、多種多様にわたる数々の『武器』についてご紹介いたします。

■それでは、御一緒して頂ける皆さまの御時間を少々拝借。。゜+. m9っ;・`ω・´)っ 。+.゜ Time Stopper !!



【第三話 一番槍・槍働き・横槍、そして一本槍。投げ槍に扱っては駄目。戦国時代の花形武器・槍についての基礎知識】

■先週第二回では、この道四十年というベテラン足軽【七梨の権兵衛】から戦場で備え持つべき様々な種類の戦闘食、兵糧や非常食に関する基礎基本、予備すべき食料や飲料水の心構えについての講義がありました。

 …――今週は 歴戦の老人武者である権兵衛がいよいよ歴年に渡って熟知しているであり、読者の皆様も興味津津であろう『武器』について予備知識を授けられることとなります。


 それでは、今宵も時代を今より約五百五十年前…――太平洋戦争の記憶をすっかり忘れて平和馴れした平成日本の世界から一転、戦国時代にタイムスリップ。

 皆様には『ある貧しい地域の寒村、それを統べている領主の小城の大手門前』に時間跳躍、その身柄を移して頂きます。




 老兵【七梨の権兵衛】と一緒に早苗の緑がまぶしい田園地帯のあぜ道を歩いた貴方。

 戦場を生き抜くためのサバイバル知識や数々の非常食・兵糧について秘話や奥義を伝授されるうち、とうとう目的地である領主武将の館兼小城の大手門前へと到着しました。




 城門前には、貴方と同じように村長から足軽出兵を要請された村人達が輪になって集まり、今回参加する合戦での働きや部隊分け・出兵前の準備に追われる盛況ぶりが眼に映ることでしょう。

 普段は門番二人が長柄槍を構えて立っているだけの静かな大手門前は、まさにこれから戦場へと赴いていく荒々しい戦闘の修羅、歴戦の足軽達の熱気で沸きかえっています。
 


さぁて、長話をしておるうちに御城へ着いてしまったようじゃの。

 見たところ、出陣は明日未明か今晩遅くといって雰囲気じゃから時間にはまだ余裕もあろうが…――何にせよ、お前さんには『戦場に出掛けられる格好』になっ て貰わねばいかん。

 まずはいくさの装束、足軽具足を身につけねばのう…。ぇえと、荷駄隊の足軽大将殿はどこであろう。

…――おぉ、居た居た。あすこに立っておる髭面の足軽大将に村の名と村長の名前、そして貴殿自身の名前を言って、『
具足(おかりぐそく)を貸して貰って来るのじゃ。着付け方は儂が教えてやるゆえ、な。



 何じゃと、鎧や武器は『れんたる』…――?。…なんじゃそれは。


 えぇい南蛮言葉を混ぜるでない、話の腰を折る!!。



 

  …――うむ、足軽具足は普通、出兵を促した地元の領主殿や戦国武将の御城から『借りる』ものじゃ。

…これを『具足(おかしぐそく)と言い、わしらは借りて使う側なので特に『具足(おかりぐそく)と呼ぶ。


 …――戦場に立つ者の生命を守る胴丸(どうまる)腹巻(はらまき)二枚胴(にまいどう)といった鎧の数々は、その出来栄えや材料によって価値に差はあれど、総てが鎧職人による手作りの品揃い。


 とてもというほどでもないが、一介の農民風情がおいそれと買える代物ではない。
 
 まぁ、ある程度生活に余裕がある豊かな農民ともなれば自前の具足を持っておるやも知れん。

 土佐の長宗我部家では一領具足などと呼ばれる、武装を自前持ちしている半農半武の野武士達が居るというし、三河の徳川家康殿の部下達もまた同様に、お呼びがかかれば鎧物の具一式をかついではせ参じたというが…

 まぁ、たいていの百姓は喰うや喰わずやの貧乏暮しで、そんなものを揃えてはおらんよ。


 仮に落ち武者狩りや戦場で鎧兜を拾ったとしても、古金買い(ふるがねがい)という専門の商売人に売りさばけば結構な金になるゆえ、大抵の足軽はそうしてしまう。
 
 
 それに…――これはおいおい、お前さんにも話して聞かせるが…戦場と言うのは本当に油断も隙もあったものではない修羅場でな。

 腕前と実力の伴わん駆け出し足軽が身分不相応に自前の鎧具足など、持たぬほうが良いの だ。…――それがたとい、御味方の陣幕のうちであってもな。

 わしの様に戦馴れして、戦場の空気や合戦の流れを嗅ぎとれるようにならねば、それこそ戦に出る前に命を落とす羽目になるぞ。



 ■七梨の権兵衛は、そう言って高笑いをしていますが…――確かに、城門前で出兵準備の具足合わせをしている足軽達はその大半が御借具足を借り受け、思い思いの場所でそれを一人で身につけています。

 皆、同じ領主の軍勢の足軽として戦うはずなのですが…――よくよく見てみると、一言に『具足』と言っても多種多様、本当にいろんな種類の具足があるようです。




□ふむ、お前さんは運が良いのう。初陣で『二枚胴』の鎧を御借具足に引き当てたか。

 その鎧は『二枚胴(にまいどう)の言葉通り、胴体の前半分を守る前胴と背中を守る後胴の二枚を蝶番で繋ぎ、自分から見て右側で紐結いに結い合わせるものじゃ。

 さすがに戦国武将の殿様が着るような見事な二枚胴と比べれば 頑丈さに引けも取れば、作りや扱いも粗雑なものじゃがな。

 
 …そればかりか、足軽の御借具足なぞ。…――よほど心得の良い大将でなければ、たいていの場合は『腹当(はらあて)と言って、体の前半分しか守れぬ粗末な鎧であることが多いものだ。

 合戦は陣形を整え敵を正面に迎えるば かりの戦闘とは限らぬ。陣の横腹から思わぬ強襲を食らうこともあれば、背後から奇襲を受けることもあろう。

 腹当一枚で地獄の修羅場を潜らされなどすれば、いかな心得の良い熟練武者であっても運がなければ命を落とすこともあろうて。





□それは練革の陣笠(じんがさ)じゃな。

   練革とは動物の皮を茹でて型枠にはめ、打ち叩いて固めたもので、軽くて丈夫に出来ておる。



  笠の後ろ側にある布は、日除けのためのものじゃ…――邪魔くさいからと言って外してはいかんぞ、お天道様に照らされ続けると、人間存外にくたびれるものじゃ。その布一枚が隔てる隔てないは、戦場で手柄を稼ぐ上では重 要な意味を持つ。

 石つぶてやら弓矢、果ては鉄炮球までもが飛び交う戦場で皮の笠とは心細いやも知れぬが…これとて御家の財政事情に余裕がない大将だと、『紙製の陣笠』を御貸具足に揃えることもあるほどじゃから贅沢は言えん。



 …―――なに、鉄製の陣笠じゃと?…かっかっか、これは豪気。

 わしは四十年ばかり足軽働きで数多の戦場を駆け抜けて来たが、鉄製の陣笠をかぶった同輩などとは出会ったことがない。

  左様に重苦しい笠を被って動き回れるほどに、戦場は甘い稼ぎ場ではないゆえにのう。




 
■よく『戦国時代の足軽は鉄製の陣笠を被っていて…戦場などで鍋がない場合は鉄の陣笠を鍋代わりに使った。』なんていうコラムを戦国漫画や雑誌で読むことがありますが、
 大名家の御貸具足に鉄製の陣笠が普及したのは江戸 時代に入ってからのことだったりします。( ・(,,ェ)・)


 戦国時代では、戦場で米やら味噌汁やらを煮炊きする場合は、それは素直に鉄鍋を持ち合い複数の足軽が一気に兵糧を煮炊きしていました。


 
数千人単位の雑兵足軽が思い思いにかまどを設けて糧食を煮炊きすれば、火にくべるための薪がばかになりませんし、それを戦場で確保するのも難しかったことでしょう。


 つまりは、わざわざ鉄製の陣笠を鍋がわりにして兵糧を煮炊きする必要が無かったわけです。




 どうしても個人単位で兵糧を焚かなければいけないばあいは、濡れた手ぬぐいに米を包んで土中に埋め、その上で焚き火を燃やす。などの手段を使ったようです。


 以前に戦国大名が軍勢を動かすときにどれだけ食糧費が発生するかという御話をしたことがありますが、兵糧を煮炊きするのにつかう焚き木や薪も立派に必要経費です。
  

( ;・`ω・´) っと、話題がそれた。
 閑話休題、カメラとマイクを七梨の権兵衛に戻すとしましょう。



 …――そも、鉄であつらえた兜を頭にかぶるのは大将侍の確たる証。
そして『兜首』とはそれすなわち手柄の証、武士にとって出世栄達の切符に他ならぬ。


 そんなものをこれみよがしに頭へ被っておれば、見間違った敵方の足軽がお前さんの首級を狙って四方八方から寄せて来るぞ。

 戦場で鉄の陣笠や兜を拾ったとしても、よほど命が惜しくなければ被ろうなどとは思わんことだ。

 あのきらびやかで威風堂々とした侍の兜には神々しさや憧れを抱くやもしれんが、あれこそ戦国武士の維持と誇りが備わった死に装束なのじゃ。

 足軽風情ではせいぜい、この陣笠が相応しいのやも知れんのう。






 
他に雑兵足軽が頭を守る防具には、『半首(はつぶり)という額から頬を守る鉄の面や、『額当て』という鉄の板金を縫い付けた鉢巻、鉄板そのものを額にあてて紐で縛った『鉢金(はちがね)、ふだんは小さく折り畳めるが戦 になれば頭全体を覆う『畳額当て』なるものもある。

 いずれも荒くれ揃いの野武士が好んで身につけておるようじゃな。



■大河『江』では、第六話「光秀の天下」で江姫を伊勢上野城で襲った野武士達が半首や鉢金を装備していました。

 結構リアリティに凝った装備をしていたあの野武士達、たぶん歴史考証の小野田先生によるものなんじゃないでしょうか。あのシーンだけ、なんか雰囲気が違いましたし。( ;・`ω・´)




 それは手蓋(てがい)、早く言えば籠手じゃな。

 その手合いのものは『篠籠手(しのごて)と言ってな。


 とかく物を失いがち・盗まれがちになる戦場でもきちんと管理ができるよう、左右の籠手が背中布でつながっておること、様々な働きで手先の器用さが要求される足軽勤めの邪魔にならぬよう手の甲を保護しないように出来ておるのが特徴じゃ。

 
 籠手があるからといって手の守りを疎かにしてはいかんぞ。


 戦場では雑兵足軽がはなつ渾身の一撃の前には、陣笠も具足も籠手も役に立たん場合が多い。

 あまつさえ、その篠籠手は手の甲を守っておらぬ。手の甲には裂けると大量の血を流す太い血管(動脈)があるゆえ余計に気遣いを忘れてはならん。


 心得のある足軽になると、この籠手に筋金(すじがね)を入れて補強をすることもある。腕は手首の裏や脇など、敵に攻撃されると命取りになる場所が少なくないことは覚えておいて損はないぞ。





 心得のある足軽、戦慣れした熟練の雑兵はとかく足回りを重視する。

 普段は村で草鞋もはかず素足で駆け回る貧農であることが多い雑兵足軽じゃが、戦場は命を賭した一撃必殺の稼ぎ場…素足で駆けるのは愚の骨頂じゃ。
 

 股引と脚絆は足を布一枚覆っただけの薄い代物、とうてい具足などとは呼べぬやも知れぬが…――陣笠同様、日よけという意味ではもちろんのこと、敵の攻撃にもそれなりの防御力がある。


 たかが布一枚隔てただけでも、敵に切りつけられたときの傷と出血の度合いに差がある。

 槍で突かれれば仕様もないが、切っ先で切られたり刀で斬りつけられたくらいなら、股引と脚絆があるなしではずいぶん話が違って来る。熟練の足軽であればいざ知らず、素人では服を着た者を斬りさくことは存外に難しいのだ。


 ■今でも、皮・脂肪つきの鶏肉を包丁で斬るのはあんがい難しいですもんね。


 
 すね当ても備えを怠る足軽が多いが、敵方の長槍足軽が足払いを狙って槍を低く振りまわした際などにはその防御力が頼もしいものじゃ。



 向う脛(むこうずね)は、かの弁慶もしたたかに打ちすえれば涙したという話があるように、強い衝撃を受ければたやすく自由を奪われる急所。


 
戦場は油断も隙もない地獄、脛に痛撃を喰ろうて棒立ちなぞしていては、文字通り『弁慶の立ち往生』よろしく矢の的になって命を失うことにもなりかねん。



 
 戦草鞋は、半足(あしなか・はんぞく)という普通の前半分しかない小さな草鞋が戦場では役に立つ。これは戦場では下半身に気を配り、踏ん張る際に足のつま先を踏みしめやすくする働きがある。
 
 なぜ戦場では上半身より下半身に気をつけねばならぬか、じゃと? …――ふむ、よいことに気がついたが、物事には順序というものがある。その段になれば、おいおい話して聞かせよう。




【今回のくえすちょん】
□ さて。この御城に来て、足軽具足についていろいろと心構えや扱い様について言うて聞かせたわけじゃが…――肝心の武器についてはまだ説明がなかったのう。

 こたびが足軽勤めの初陣となるわけじゃが…――おそらくお前さんは長槍足軽として戦場に出向くことになるじゃろう。


 見立ての理由については、また難しい話となるゆえおいおいの機会にするが…見ての通り、わしはこのとおり自前の長槍を準備しておる。

 お互い足軽具足は無事に装着し終えたことじゃし、ここはひとつ…――お前さんの槍の腕前を見せて貰いたいのじゃ。




 
いくらお前さんが戦働きのイロハを知らぬ初陣足軽とは言え、槍を扱う雑兵足軽の動きがどういうものかはある程度知っておるじゃろう。

遠慮はいらぬゆえ、ひとつ景気づけにその長槍でわしに打ちかかって来るが良い。

 わしも今から四十年前はお前さんと同じ初陣足軽じゃったわけだが、そのときにも同じように…先輩足軽から槍の扱いと心構えについて試されたことがある。


 …わしはその時に槍の扱いを間違って、こっぴどく叱られたが…――はてさて、お前さんはどうかのう。





@ 槍は突いてあつかうのが一番に決まってる。ここは、初陣で一番槍がとれるように気迫をみなぎらせて、槍の中ごろを強く握りしめて…渾身の力を込めて、権兵衛めがけて鋭く突きだした!!

Aたぶん権兵衛は、こう言えば槍を突きだして来ると思っているだろう。それじゃあ思惑通りで面白くないから、意表をついて槍を大きく振りかぶって、穂先で思いっきり叩きつけてやろう。


Bひょっとしたら権兵衛は何かよからぬことを企んでいるのかも知れない。なるべく距離を置くため、槍の柄の後ろのほうを握って…腰を引けたへっぴり腰に構えて、おどおどと権兵衛の顔色をうかがってみよう。


■さて、あなたの意見はどの項目に当てはまりますか?各項目をよく考えて、権兵衛に答えを聞いてみましょう。






@ 槍は突いてあつかうのが一番に決まってる。ここは、初陣で一番槍がとれるように気迫をみなぎらせて、槍の中ごろを強く握りしめて…渾身の力を込めて、権兵衛めがけて鋭く突きだした!!




 さて、槍の王道的な使い道は『突くことだ』と判断した貴方。

 全身全霊の力を込めて鋭く槍を突き出したところ…――意外なことに権兵衛、余裕綽々といった様子で槍の穂先を横にさけて槍を小脇に挟み込みます。

…――そして次の瞬間、その柄を掴んでぐいっと引っ張って来ました。



 いえ、押し返してきたのではなく…権兵衛は自分のほうへと強く引き寄せたのです。



 渾身の力を込めて前に突きだしていたなら、貴方の体重はかなり前のめりに掛っていたでしょう。


…――勢い余った貴方は前方に向けて転ぶか、転びたくなければ槍を離さなければいけません。


 いずれにせよ、権兵衛は貴方が突き出した槍の穂先に対してなんら不利になる状況を作らず、発想の転換といってよい方法で槍を避けたことになります。




□ふむ、やはりそういう動きに出るか。

 …――奇遇じゃのう、わしも四十年前に先輩足軽に同じ質問をされたとき、絵巻物語の武士がそうあるように、勇ましく勢い強く、槍を突き出したものじゃ。

 結果、今とまったく同じ方法で槍の穂先を絡め取られて地面に這いつくばったのじゃが。

 …――これは若い雑兵足軽によくあることゆえ気にする必要はないが、覚えておくがよい。


『槍とは、くものだとおもっちゃあならねえぞ。』?




Aたぶん権兵衛は、こう言えば槍を突きだして来ると思っているだろう。それじゃあ思惑通りで面白くないから、意表をついて槍を大きく振りかぶって、穂先で思いっきり叩きつけてやろう。



 突くのが常道という槍の扱いの常識を捨て、槍の柄を鈍器代わりに振りかぶった貴方。

 轟音とともに振り下ろされてきた槍に、権兵衛は少し眼を見開いて驚目し、すばやくその槍から身をかわしましたが…――その直後に、笑顔で拍手を返してきました。



見事!…――戦働きに必要なのは、敵の常識や油断を突いて意表をつくその発想と、そしてそれを実行に移す行動力じゃ。

 こたびが初陣の雑兵足軽にはない利発さ、やはりお前さんはわしより筋の良い足軽になれるやもしれん。


 最近の流行りは、やはりなんと言っても『長槍足軽の集団戦法』じゃ。

 この様な槍を戦場で、しかも集団で扱うに当たって気をつけねばならぬのは…周囲の同輩に気をくばり、足並みを揃えて陣形を崩さぬこと。



 そして、足軽長槍が戦場でその力を発揮するのは、今お前さんがした『槍を強く叩きつける』動作にある。

 この動作は、足軽大将の号令に合わせて皆が一斉に行うことに意義があるのじゃ。


 最初はやはり臆病が先に立ち、相手を叩こうとしても踏み込みの距離が足らぬ場合が多い。こつは、敵の頭ではなく背負った旗指物をはたき落とすような狙いで、槍柄を十分にしならせたうえで振り下ろすことだ。


 戦場で足軽長槍隊が接触を始めれば、その合戦は火ぶたを切って落とされる。敵味方入り混じっての乱戦が始まればその限りではないが、合戦の勝ち負けを握っているのは軍勢と陣形を維持している『長槍足軽が踏みとどまれるか、それとも算を乱して逃げ出すか』のそれに掛っていることが多いものだ。


 長槍足軽が槍のはたき合いに根を上げて敗走するのを『平場の槍崩れ』と言ってな。たいていの合戦では、これを起こして長槍足軽が逃げたほうが負ける。


 甲斐の武田信玄殿などは『長槍の柄に木槌を付属し、叩くのに有利な槍』を考案して戦場に導入、足軽長槍の叩きあいに勝利しやすいように気を配ったという話もあるくらいじゃ。


 重ねて言っておくが、集団で扱う長槍は『突くもんだと思ってはならん。一斉に敵めがけて振りおろし、叩き伏せるようにして扱う』ものなのじゃ。



Bひょっとしたら権兵衛は何かよからぬことを企んでいるのかも知れない。なるべく距離を置くため、槍の柄の後ろのほうを握って…腰を引けたへっぴり腰に構えて、おどおどと権兵衛の顔色をうかがってみよう。



 積極的な攻撃に打って出なかった貴方。槍のはしを握って腰を引かして構えた格好は臆病そのものに見えたことでしょう。



 しかし、七梨の権兵衛はそんな行動を目にして…少し驚いたように目を見開きました。意外だ、といった表情をしています。




…――何じゃ、お前さんも人が悪い。



 槍の扱い、しかも戦場での個人戦での槍の扱いをしっかりと心得ておるではないか。

この権兵衛も足軽稼ぎを初めて四十年、色々と後輩に指南をしてきたが…よもやこれが初陣の雛ッ子足軽が『仁王腰の構え』で槍をもつとは、予想がつかなんだぞ。


 ん。…――何を驚いておるのじゃ。

 お前さんが今構えている、槍の柄頭を掴んで腰を引けたその構えこそ、敵に己の槍の長さを悟らせぬための極意たる構え、『仁王腰』ではないか。



 そのまま、右手だけを前後に突き、左手は柄に添える程度にゆるく握る。そして、自身の足や腰は体重移動を起こさずに右手だけの動きで敵を突く。

 そのときに右手の手首を捻り回転を加え、左手は添えているだけというのが仁王腰の極意じゃ。



 『槍を突いてはならぬ』という雑兵足軽の槍術の奥義は、敵に槍の穂先が届く範囲、攻撃できる長さを悟られぬようにするためだ。


 考えなしに踏み込んで敵を突けば、それ一撃で終われば良いが…――もし攻撃を避けられた場合、相手にこちらの獲物の『限界』を見せてしまうことになる。



 次に槍を突けば、敵はおまえさんの槍の柄を掴んで引っ張るか、穂先を足で踏みつけて柄を動かせぬように工夫をしてくるだろう。


 さすればお前さんは体を崩して地面に突っ伏すか、さもなくば槍を奪われることにもなるじゃろうて。それが何を意味するかは、言って聞かせるまでもないかのう?



 織田右府殿…信長公の重臣として名高い明智光秀殿の麾下に、安田国継という槍の名人が居る。

 明智三羽烏と呼ばれた戦歴豊かな槍上手殿なのじゃが…昔、その国継どのに槍の扱いの極意を聞いたところ、やはりその『仁王腰の構え』を取ってな。

『槍は、突くな。こうして右手だけを前後に動かし、敵に弱点を知られぬようにせよ』と言って聞かされたものじゃ。

 

 

□ さて、こたびの問題ではお前さんの足軽勤めに関する常識と、それを利用する発想を読むのがねらいじゃったが…第三問の解答は…A、次点でBといったところかのう。


 
 一番槍、横槍、一本槍、投げ槍…そして槍働き。

 様々な戦場言葉に槍という文字が混じることからもわかるように、とかく最近の戦ではこの『槍』に関する扱いを知らねば、手柄はもちろんのこと…合戦で無事に生き延びること も難しゅうなってきた。


 お前さんも雑兵足軽として武勲をあげたいと欲するならば、この槍の扱いについて鍛錬を怠らぬことじゃな。もっとも、こたびは初陣ゆえにぶっつけ本番になるわけじゃがの。

 


 さて、次回は…槍のほかにも数多くある雑兵足軽の『武器』についての正しい知識と、その扱い方を教えてやろう。

 確かに足軽勤めは槍があれば出来るやもしれんが、世の中には様々な得物を抱えて戦場にやってくる戦国武士がある。

 戦場でそういったものたちに後れをとらんためにも、その種類や攻撃の手段…そして対処の方法を正しく知識に会得するのもまた生き延びるための方策となろう。



■ さて、【戦国歴史をリアルに楽しく疑似体験するシリーズ】、その第三回をお届けいたしましたが…いかがだったでしょうか。

 次回は前準備編の第四話、ベテラン足軽の権兵衛が戦国乱世の合戦を独壇場とした様々な武器についてレクチャーしていきます。

 刀は武士の魂、だなんて言ってられるのは平和になった江戸時代の御話。はたして、当時の戦国乱世の闘いにはどんな武器が振るわれ、活躍したのでしょう?

 有名なものからマイナーなものまで、様々な武器についてご案内して いきます。

 次回の当ブログ更新に御期待ください。( -(,,ェ)-)



 ■ それでは、今回も話が歴史と乖離し過ぎてどの辺にフォロー当てたらいいのかわかんなくなりつつある大河『江』の感想&与太話、その第二十五話『愛の嵐』について徒然とお話していきたいのですが…。

■主人公with三姉妹は置くとして、やはり一番光ったのは岸谷五郎さん演じる豊臣秀吉、その鬼気迫る狂乱ぶりでしょうか。

 齢五十歳、戦国時代ならいつ死による幕引きがあってもおかしくない老年の域に達してもうけたわが子・鶴松を失った悲哀は、千利休や豊臣秀長らを相次いで失った孤高の独裁者が悲嘆に狂うのも仕方ない悪夢でしょうが、

 やはり、あの髷を切ったざんばら髪、どこか憑かれたような目つきで暴れまわる秀吉の横顔は見るものに訴えかける画面映え。もともと、感情にまかせるとおかしな暴れ方をする岸谷秀吉でしたが、今回の演出は天下を取りながらも徐々に下り坂に向かう孤高の太閤・秀吉の寂しい一面を強く印象付ける名シーンになったように思います。

 その、心にぽっかりと穴が空いたような虚ろな秀吉に石田三成が朝鮮出兵を吹き込む流れもまたgoodでした。

 豊臣秀勝(AKIRA)を江の婿に引き合わせるシーンでの、視線にはもうすでに狂気が宿っているかのような、ぞっとする雰囲気をたずさえた初老秀吉でしたが…――さて、来週からはどんな顔になっていくんでしょう。



  さて、そんな秀吉をよそに今回もあばれはっちゃく(古いなオイ)全開な江。

 石坂浩二さん演じる茶聖・千利休がついに退場。やはりここでも、農民の娘に扮するとかいうありえない手段で江姫(上野樹里)が接近しその最後を見取る歴史の証人となりました。


 この手の強引な手法は、江が主人公として歴史の一大事件に関わらなければいけないという雰囲気はわかるとしても、少々強引。そして、そこまで因果を張って感動に持っていってるのに、なぜか涙腺が緩まない画面構成。 

 これには個人差もあるでしょうが、やはり江というキャラクターの非現実的立ち位置が大きく関係しているのは間違いないでしょう。



 あと、直江兼続と思しき愛の前立てをつけた武将が利休屋敷の表に居ましたが、なぜあそこまでわざとらしく登場をさせておいて顔は見せなかったんでしょう?

 たとえ刺身のツマでもよいので、ここで画面を引き締めるようなワンポイントゲストに坐って貰っても良かったのに。( ;・`ω・´)ツマブキは無理としても。



 千利休の死・寂しい秀吉の横顔・鶴松を失って狂乱する秀吉、そして唐突に縁組が組まれる江と豊臣秀勝。


 いっぱい歴史のおいしいとこをつめこんで波乱万丈ぶりを強調したのは良いですが、つめこみすぎてどのエピソードも印象が薄くなり、視聴後にどのシーンへ感情移入すればよいのかも判らなかった、というのが素直な感想でした。




■さて、次回予告シーンではいよいよ江がおてんば暴走姫から一転、一児の母となろうとする場面が見られましたが、いったい豊臣家は、そして三姉妹はこれからどうなっていくのか。

 そして、豊臣政権最大の愚行とされる朝鮮出兵。日本のみならず東アジア全体の歴史に大きなうねりをもたらした悲劇は、いったいどんな結末を迎えるのか?

 そしてぶっちゃけ、朝鮮出兵に出陣していった戦国武将はどれだけ登場するのか!!? いちおう戦国大河、その辺もうちょっと頑張って欲しいぞNHK!!

2011年大河『江』第二十六回 母になる時 感想と解説





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