>■さぁ、たぶん胸を張っても良いでしょう。本邦ネット界隈でもっとも遅い『江』第六話感想をお送りいたします、が…――まず最初にちょっとした小噺から。
『のだめ』で才能を開花させた新鋭実力派女優・上野樹里を投入し、08年大河『篤姫』で大人気を博した田渕久美子を脚本家に立てた黄金タッグ…のはずなのに、巷ではあまり評価を得られていない模様で、赤髭も赤髭の近辺でも概ね評判が良くない『江』ですが…
先日、職場で同僚と話をしていた際に、とても素晴らしい『江』の視聴方法を聞き、目から鱗が落ちた思いがいたしました。
では、その情景をノーカット無脚色でお届けいたします。どうぞッ!! ( ・(,,ェ)・)っ◆ アクション!!
赤髭 >>
うーん…――どうも今年の大河はこう、戦国時代モノらしくない熱さが感じられないですねえ。
同僚 >>
ん、そやな。去年が良かったから余計色眼鏡で見られるんだろうけど…こないだ、視聴率20%割ったんやって?
赤髭 >>
らしいです。あの緩さというかぬるさといおうか、言葉に出来ない歯がゆさと緊張感のなさが何ともいえません。
同僚 >>
そりゃあ、しょがない(仕方ない)やろ。だって、今年の大河…―『江姫 ~姫達の戦国~』って題やろ?
赤髭 >>
はぃ?
同僚 >>
戦国の姫達、やなしに 姫達の戦国 ってことは、戦国時代は文字通り二の次なんや。
お姫様視点でやるんやから、そら戦国武将も時代考証も二の次三の次やわなぁ。
要するにや、あれは戦国歴史大河やなしに妄想フィクションドラマってことや。
戦国時代無視しとる!とか、ドラマストーリー破綻しとるとか、当たり前やんか。
妄想フィクションなんや。
"『笠地蔵』で、地蔵さんに笠かけたらあとで御礼もろた、めでたしめでたし"に『なんで地蔵が動くねん!』ってつっこみ入れるようなモンやん。
赤髭 >> …――スッキリ―(
・(,,ェ)・)―――ッ!!!!(頭のなかで何かが透き通っていく音)
OK、私はどうやら本年大河『江』の見方を間違っていたようです、HAHA。'`,、('∀`)'`,、
それでは、感想もそこそこに第六回『光秀の天下』、解説と歴史痛的与太話を展開させて頂きます。
それでは、御一緒して頂ける皆様の御時間を少々拝借。 。゜+. m9っ;・`ω・´)っ 。+.゜
■明智光秀(市村正親)with斉藤利三(神尾佑)
本能寺の変を起こした理由が『わかりませぬ…。』(;=(,,ェ)=)
うん、長年心療内科に携わってきた私の観察眼に間違いはなかった!
追い詰められるところまで追い詰められて、鬱った末、単に堪忍袋の限界に来ただけだったんですね、『江』の本能寺の変・謀反の真相は!(だから待て。
ですが、実際…――
明智光秀の史実における本能寺以降の段取りのまずさは、彼の謀反が緻密に、智謀策略を張り巡らせて計画されたわけじゃない。という雰囲気がひしひしと感じられます。
一応、本能寺の変以降から山崎の合戦で死ぬまでの十一日間は京都や朝廷を掌握したり、上杉・北条・毛利・長宗我部といった反織田家勢力に手紙を送ったりしてるんですが、もう一枚、今回の謀反を確実にするための用意周到さが見られません。
いちおう、明智家譜(あけちかふ。明智家の編纂であるため正確さには欠けますが)によれば、この数日間のうちに光秀は朝廷から近畿一帯の支配者、そして『征夷大将軍』に叙任されていたそうなのですが(だから斎藤利三が"上様"と呼んでいたのかな)、それ以外の段取りは何も出来て居ません。
信長の居城・安土城を抑え丹波・山城・近江の諸豪族を従えようとしましたが、ついてきたのは先見性のない弱小凡愚な田舎武者ばかり。
頼りにしていた女婿の細川忠興や、長年苦楽をともにした同僚・細川幽斎はついてこないし、さんざん世話をしてやった大和の筒井順慶も動かない。
おまけに、寄騎大名として麾下にあった高山右近・中川清秀らにはあっけなく見捨てられて秀吉がたに走られる。(この二人は前にも上司だった荒木村重を呆気なく見捨てているので、警戒すべきだったにも拘らず、です。)
そもそも、織田信長の首級を挙げられなかったことが最大の失敗にして最初のつまづきです。
信長が死んで、覇者が変わったことを天下に表明できなかった時点で光秀の謀反は半分以上失敗してるんです。
こんな初歩的な段階でけっつまづいたのも、明智光秀が鬱状態で『とにかく今の窮状を逃れよう』と後先考えずにおおそれたことをぶっちゃらかしたからでしょう。
つかまった江に何を尋ねられたも『分かりませぬ…』としか言えなかったこともすべて合点がいきます。
光秀は精神的に憔悴していて、発作的に何も考えず本能寺の変を起こしたのならば。
ところで、あまりにもあっけなくはしょられた山崎の合戦ですが…。
いや、幾らこの時期の戦国時代の出来事が妄想ドラマにとっちゃ刺身のツマだとしても、この扱いは惨い。
合戦シーンどころか槍を合わせるシーンも皆無のまま、睨み合いだけで決着。
あと、気になったのが合戦前の睨み合いシーンでの具足やディティールの貧相さ。
秀吉Fanには御馴染みの馬藺後立付兜(ばりんうしろだてつきかぶと、あの頭の後ろから後光がさしてるようなド派手なやつです)じゃないのは口惜しいで済むとしても、陣羽織すら着てない。あの派手で目立ちたがり屋の秀吉が、亡き大殿のあだ討ち合戦で。
あのあたりは時代考証の大家・小和田哲男さんが監修してるはずなのですが…――。
それに、なんであんなにスッカスカな軍陣内容なんでしょうか。
あの時代、大将格の周りには小姓や馬廻り役といった親衛隊がたくさん居たはずですし、何より味方にとっては指揮向上に絶大な効果のある、煌びやかな軍旗や千成瓢箪のお馬印、派手な陣羽織に包まれているはずの秀吉や光秀の格好があまりにも地味かつ貧相過ぎます。
これが、地方の民俗資料館や博物館でよくある、ボタンをぽちっとなと押せば始まる、チープな歴史ビデオならわからなくもありません。
天下のNHKなんですよ。予算だってかなりあるはずなのに…――まぁ、ひょっとしたらもっと物語の後半、関ヶ原の合戦とか大阪夏の陣に向けて節約してるとも考えられるのですけれど、ねぇ…。
( =(,,ェ)=)
あと、家老の斎藤内蔵助利三ですが…――ずいぶんあくどい印象を与えておいたくせに、あっけなく退場してしまいました。
何の前振りだ?と思われた方も多いでしょうが、実はあれ、重要な複線です。
江の生涯にも後年、多大な影響を与える『ある人物』と斎藤利三は意外な関係でつながっているからです。
赤髭もなんで娘婿の明智秀満じゃなくって斎藤利三を側近としてプッシュしてるんだろう?とは思いましたが、よくよく考えたら確かに妥当な、『篤姫』や『大奥』Fan好みな素晴らしい複線。
おそらく、かなり後半になってから視聴者の皆様は斎藤利三の顔を思い出すことになるでしょう…。
□歴史痛のこぼれ話
@明智光秀の家老・斎藤利三ですが、実は光秀とは強い絆で結ばれた関係にありました。
利三はもともと美濃曽根城主・稲葉一鉄の家臣だったのですが、一鉄と不仲になり出奔、流浪のすえに明智光秀の麾下となったのですが…
のちに光秀が信長に仕えた際、すでに先輩として織田家家臣となっていた稲葉一鉄から『斎藤利三を返して欲しい』と言われ、光秀は『利三は大事な家臣です。』と、これを拒否。
すると今度は織田信長の命令で『斎藤利三を稲葉一鉄に返してやれ。』と言われたのですが、なんと光秀…この命令も拒否!!
怒り狂った信長から頭を張っ叩かれ、『お前に給料をやってるのは、こういう時に俺の言うことを聞くためだろうが!!』と恫喝されます。
しかし、それでも光秀はあきらめません。
『はい、私が信長様より俸禄を頂いているのは、その御恩に報いさらなる奉公に励むためです!
織田家の為に良き働きをするためには、信頼できる家臣が必要なのです。私の麾下に斎藤利三があるのは、そのためです!!』
これには織田信長も二の句を継げず、結局斎藤利三は明智家に残ることになりました。
この行いに感激したのか、斎藤利三はその後も忠実に光秀のもとで働き、山崎合戦ではかなり重要な陣地を任されました。
その斎藤利三が激戦の末に敗走し、本陣に『斎藤利三殿討ち死に!!』と誤報が届いたとき…光秀はがっくりと肩を落として落胆し、
今回の謀反が失敗に終わったことを悟ったということです…。
( ・(,,ェ)・)
A『儂に相談もせずに、おおそれた事をしよって!!』と光秀の不義不誠をなじっていた細川幽斎。
光秀とは同じ室町将軍家幕臣として苦楽を共にしてきた旧年来の友人ですが、実は細川幽斎、光秀にそんなこと言えた義理じゃないほど裏切り・寝返りの達人です。
戦国時代末期の難しい情勢をたくみに読み取り、足利将軍家→織田信長→明智光秀→豊臣秀吉→徳川家康と、主君を乗り換えた回数は実に四回。風見鶏、危機に窮じれば必ず裏切る男と世評されるほど、機を見るに敏な人でした。
なお、この人の遠い遠い子孫が、細川護煕元総理大臣です。
■江(上野樹里)
…なんていう緊張感と危機感を感じさせない、お約束的展開なんでしょう…。
織田信長の姪にあたるお姫様が野武士にさらわれても無事で済んでる、仮にも織田信長弟の居城である上野城が野武士の襲撃で落ちる、光秀のもとに届けられてもお話だけで無事釈放される…――。
うーん…この時代の有名な出来事や事件と結びつけておいて話に起伏を生もうというのならわからなくもないですが、こう…
もっと、ほんの少しでもいいのでリアリティを出せなかったんでしょうか…――( =(,,ェ)=)。
まぁ、御伽話の矛盾にツッコミ入れても仕方ないのかも知れませんが…。
■
さて、脇にそれてばかりの感想でしたが…いかがだったでしょうか。
次回予告では火サスの常連だった名俳優・大地康雄さん演じる柴田勝家が気勢を吐くシーンがあり、ちょっと歴史痛的にも期待が持てそうですが…。
2011年大河『江』第七回 母の再婚 感想と解説