2011年大河 -姫たちの戦国-』   - 第七回 母の再婚 -


■前回、『光秀の天下』で早々に視聴率20%割れを達成し、トヨエツ信長が抜けた跡目が大変だということを証明してしまった本年大河『江』、残念ながらこの第七話『母の再婚』でも視聴率18.5%を達成。以前苦しい展開であることが証明されてしまいましたが…。


 ここにきてどんな巻き返しを考えているのかと思えば、豊臣秀勝(とよとみひでかつ 1569〜1592 秀吉の甥・江の二番目の夫)にEXILEのAKIRA(黒澤良平)さんを投入することを発表。



EXILEのAKIRAが大河俳優に挑戦、上野樹里の夫を熱演http://natalie.mu/music/news/44529





 話題の人気有名人をキャスティングすることで視聴率の挽回、EXILEのFanまで視聴者層に取り込もうとお考えのご様子。どうみてもいつものやつです、本当にありがとうございました( ;=`ω=´)


 脚本の田渕さんは『豊臣秀勝はAKIRAさんをイメージして脚本執筆した』とのことですが…もう、好きにぶっちゃらかして下さいとしか言えません、大河ドラマは本格歴史絵巻だと思っている視聴者層としては。


 けど、きっと落胆してる人と喜んだ人を秤に掛ければ思いっきり右に傾くんでしょうねえ。歴史ブーム戦国ブームとは言え、やっぱり歴史痛や歴オタはマイノリティ…( ・(,,ェ)・)


 というわけで、今回も一週間遅れで大河『江』の第七話『母の再婚』、感想と歴史痛的補説の開始です。



■羽柴秀吉(岸谷五朗)with羽柴秀長(袴田吉彦)・黒田官兵衛(柴俊夫)


 大河ドラマの主人公や主要人物が歴史上で行った"悪事"や"イメージの良くない出来事"を、他の関係ない武将の所業に振るという改編は良くあることですが、今回の秀吉は本能寺の変での大返しを独断で決行したり、いちいち立ち居振る舞いが悪役っぽかったりで『まったく好感が持てない秀』という新たな人物像を創造している模様。


 第五回『本能寺の変』終盤では一人で情報形勢を判断し、一気に中国大返しを敢行しましたが、普通ならあの場面は悲嘆にくれる秀吉の耳元で、黒田官兵衛が



 『いやぁ大将、運が開けて来ましたねぇ』


 と神経逆なでするような、けれど現実的思考に即した囁きをかけ、それを機に秀吉が信長の後継者として飛翔していく場面なのに、その描写を排除し秀吉の悪知恵だけがそれを決断したように描写していましたし…


 今回の清州会議でも、明智光秀の敵討ちをした立役者として三法師を肩に抱き、織田家総領に推戴する場面などはまるで『水戸黄門の印籠をふりかざして』いるかのよう。



 いや、あの場面で『頭が高い』はないでしょう、むしろ図に乗るな秀吉。



 まぁ、江にとっても印象の良くない人柄でしかない秀吉のこと、とにかく悪人扱いしておかないと後々、徳川家康の行動が正当化出来ないでしょうから、よくよく考えると当然の布石・複線なのかも知れませんが…――それにしても鼻につく悪党振り。


 確かに斬新な脚色ではあるんですが、今後岸谷秀吉を中心とした時代舞台の移り変わり、果たしてメインと踏んでいるであろう女性視聴者陣営をつなぎ止めておくことが出来るのでしょうか?


□歴史痛のこぼれ話
@かつての信長の居城・清洲城での開催された後継者選定会議『清洲会議』ですが、大河『江』では柴田勝家と羽柴秀吉の一騎打ちだったのに対し、史実では秀吉による多数派工作、『三対一』の多数決でした。


 清洲会議に参加した主な織田家幹部は柴田勝家・羽柴秀吉・丹羽長秀・池田恒興の四人。


 実は秀吉、事前工作で勝家以外の三人に織田信長の嫡孫(ちゃくそん。後を継ぐべき当主の孫)・三法師の擁立を依頼しており、会議では信孝を推戴する勝家に対し秀吉ら三人が三法師擁立を主張、会議は秀吉派閥の勝利に終わりました。

 勝家派閥の敗北は、首領である勝家が信長の弔い合戦である山崎の合戦に間に合わなかったことも大きく影響していますが、同じ勝家派閥で関東管領をしていた滝川一益が神流川の合戦で相模北条家に大敗、清洲会議に間に合わなかったこと、勝家が信孝の烏帽子親であり、信孝相続は勝家の織田家専制を赦すことになるのを他の織田家家臣が恐れたのも原因です。当然、その根回しをしたのは秀吉ですが。。

 
 織田信孝は丹羽長秀・池田恒興らと共に大阪尼崎で秀吉軍に合流、山崎合戦に参加はしていますが明智光秀に『味方しそうだったから』という理由で従兄の津田信澄をはやとちりで殺害してしまったり、人望のなさで部下の軍勢に逃げられたりと散々の有様。

 山崎合戦前には、人前で秀吉に『勝手な真似をしないように!!』と怒鳴られる始末。
 …とても、後継者になれる状態ではありませんでした。


■柴田勝家(大地康雄)with織田信孝(金井勇太)・佐久間盛政(山田純大)
 今まで大河ドラマで柴田勝家といえは松平健さんや菅田俊さん(風林火山では平賀源心入道で男気ある好演を見せてくれました)、六平直政さんといった名優が顔ぶれを揃えていますが…うーん、何なんでしょうこの柴田勝家像は…。



 威厳がある怒鳴り散らしを見せてくれた先週の次回予告とは一変、清洲会議では秀吉にいいところが一つも見せられず、お市の方(鈴木保奈美)との再婚が決まれば『あんたどこの平社員だ』と言わざるを得ないような戦々恐々・平身低頭振り。



 特に、茶々(宮沢りえ)に『私は厭でございます』と言われた時の、気が抜けた『え?』や、それ以前の三姉妹を前にした態度からは、とてもじゃありませんが『甕割り柴田』『鬼柴田』と呼ばれた威厳がさっぱりありません。



 十六歳〜十一歳の小娘三人に退場されて唖然とする顔は見ていて背中がむずむずしてきます。


 確かに、本能寺の変前後の勝家は完全に往時の生彩を欠いた、まるで抜け殻のような失態振りだったのですが…――いくら三姉妹を立たせるためとはいえ、これはどうなんだろう…。( ・(,,ェ)・)



 まぁ、そのぶん次回予告ではかなり威厳のある荒々しい父親ぶりを見せてくれてましたし、次回での挽回に期待したいところです。




 なお、今回から勝家陣営として登場した佐久間盛政は柴田勝家の甥で、まだ十分に成長した実子に恵まれなかった勝家にとってはわが子も同然の寵愛を受けた武将です。

 弟が二人居ますが、うち一人は柴田勝家の養子に迎えられています(柴田勝政)。

■というか、逆ですね。柴田勝家の柴田家が元を正せば佐久間派閥で、勝家はその筆頭格でした。


 官職名が玄蕃正(げんばのじょう)であったため、その勇敢な武勲は『鬼玄蕃』と讃えられました。清洲会議の情景を描いた錦絵などでは、三法師を肩に抱いて啖呵を切る秀吉の前で柴田勝家と一緒にサルを睨みつける彼の姿を見ることが出来ます。


 後に秀吉と勝家が激突する際、彼の起こした『ある判断ミス』が三姉妹に悲劇をもたらすことになるのですが…果たして、今年の大河でその描写が十分に為されるかどうやら。っていうか、賤ヶ岳の合戦がちゃんと描写されるのかどうかが一番心配なところですが。(爆


□歴史痛のこぼれ話
@柴田勝家が本能寺の変の報を聞いたのは、越中国(現富山県)の魚津城を攻め落とした直後のこと。
 大河『天地人』ではその悲惨な落城の光景が描写されていましたが、
実は勝家、上杉方に『開城すれば城兵の命は助ける』と言っておきながら約条を破り、上杉軍を皆殺しにするという暴挙をやらかした直後でした。


 信長横死を聞いた勝家は急ぎ上杉方と和睦しようとしますが、非道な約条違反を犯していたためなかなか話がまとまりません。やっとのことで講和して、急ぎ京都に向かい軍を出陣させますが…時既に遅く、『山崎合戦で秀吉が光秀を討った』という報を聞くことになります。



 ちなみに、勝家がこの報を聞いたのが賤ヶ岳(現滋賀県北部)。
 勝家にとって、この賤ヶ岳という場所はどこまでもゲンの良くない土地柄だったようで…翌年、勝家はこの賤ヶ岳で自らの戦国武将生命が終わったことを知らされることになります…。


A勝家が次期織田家総領に推戴した織田信孝、実は清洲会議を欠席していたようです。


 勝家が会議で三対一の劣勢に立たされたのは前述した通りですが、彼の意見が通らなかったのは神輿がそこに居なかった、というのも大きく関係しているようです。


B信長の器量や容貌をいちばんよく受け継いでいたとされる織田信孝。

 本能寺の変が終わったあと、『誰が明智光秀をそそのかして父信長を討たせたのか』という黒幕が朝廷の上位貴族であると踏み、複数の公卿から『事情聴取』をしています。その取り調べは苛烈を極め、調査を恐れて京都から逃げた貴族があったほど。


 実際、このころに書かれた貴族の書状や日記には『奇妙な欠落』や『改ざん』が多く確認されており、光秀をそそのかしたのが朝廷なのではないかという『本能寺の変・朝廷黒幕説』の証拠とされています。


■江(上野樹里)with茶々(宮沢りえ)&初(水川あさみ)

 とうとう清洲会議にまでしゃしゃり出て、秀吉に真っ向切って文句まで言うようになりました、江姫十一歳。



 織田信長という一代の覇者が去り、その後継者を決めるという重大な会議を座敷表に武者溜まりも造らず挙行したり(だから江がそば耳を立てられた)秀吉だけが盛装なのに勝家たちは普通の格好だった、っていうか本当に四人だけしか参加者が居なかった、などなど…――突っ込みどころは満載です。いくら”姫達の戦国”とはいえ、です。




 時代考証がおかしいのか(あの小和田哲男さんなのでそれはないと思いますが)脚本家にひん曲げられたのか(たぶんこっちが主犯( =(,,ェ)=))は知りませんが、物語の筋道もディティールも変、それが物語や雰囲気の『軽さ』を助長して悪循環を生んで…――うーん、ちょっと視聴に堪えない事態になってきたような気がします。



 最近になって噴出している批判意見には『歴史を解釈するのは自由だが、曲解するのは良くない』という話が多いようですが、その反論として『知っててやってるんだからほっとけや』という、身も蓋もないですがごもっともなご意見も聞きました。
 
 あの豊川悦史さん演じる信長も視聴者に意外と思わせる信長像を狙っている』ということでしたし、十歳そこらの少女では歴史の波にのまれるだけ、史実通りにやれば本当に蚊帳の外にでっぱなし、ということになりかねないのは判る気がしますが…。


 
 個人的には、一回に六千万円も掛けて制作する国営放送、大河ドラマの金看板でわざわざファンタジーやらなくったって良いだろう、と保守派の歴史痛は思うわけで…。
( =(,,ェ)=)





■ さて、リベラル寄りの歴オタを装った(蹴)感想でしたが…いかがだったでしょうか。
 次回予告では今回は情けなさ一色だった織田家重鎮・柴田勝家が江を殴りつける衝撃的なシーンがありましたが…果たしてその展開は、そして理由は何なのか。
次回を御期待下さい。



2011年大河『江』第八回 初めての父 感想と解説




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