2011年大河 -姫たちの戦国-』   - 第八回 初めての父 -


■さて、今週の大河『江』は俳優陣の演技なのかEXILE投入による話題のせいなのか、はっきりしないまま視聴率20%代を回復しましたが…――相変わらず世評の方はしっくりいっていないようです。


 豊川悦司さん演じる織田信長が歴史の表舞台から去り、視聴者層も『本年大河放送開始!!』熱が冷めてきた向きもあるのでしょうが…――個人的には、北大路欣也さんの徳川家康や大地康雄さんの柴田勝家といった往年の名俳優陣に期待したいところ。 



 特に、先週まではてんで良いところがなかった柴田勝家が今回は『男気のあるところ』を奮ってくれる名場面があることが先週予告でも判明していますし。

 ですが、いったい何が理由で勝家は江を殴ったのか。歴史時代考証よりもファンタジーな点を強調するティンカーベルの大河劇、はたして私のような古き良き“時代遅れ”の視聴者層を納得させてくれる展開なのでしょうか。


( ・(,,ェ)・)。oO( 一抹どころで済まないほど不安なんですよ、こんなクマーな顔してますが。)

 それでは今回も一週間遅れで大河『』の第八話『初めての父』、感想と歴史痛的補説の開始です。



■江(上野樹里)with茶々(宮沢りえ)&初(水川あさみ)
 相変わらず勝家にはどこまでも強気な、というか母親の再婚理由にケチまでつける台詞まで吐くようになった力強い十七歳〜十一歳の三姉妹。

 上野樹理さん演じる江はまだまだ”父親像”が確立していないだけに、心揺れる難しい少女の心模様を見事に表演してくれてますが…。

 …――やっぱり、どこか雰囲気やたたずまいから『戦国時代という、生き馬の目を抜くような油断ならない、危機殺伐とした雰囲気の世界に生きている人間』というが感じられません。




 今回も柴田勝家とのあいだに『ちっちちちち…。』とコミカルなヤリトリがあったかと思えば、下賤の馬丁が世話していた馬へ無理矢理乗り込んで場外へ疾走してしまうし、そして今回も案の定、『迷子になる』という取ってつけたような理由の危機を迎えてしまう。



 そして、徳川家康と一緒に迎えた『君伊賀越え』の時や伊勢上野城が野武士に襲われた時と同様、びっくりするほど危機感とかハラハラドキドキ感が無い。

 いくら佐久間盛政が『城の東…あのあたりには熊や狼が出る』と危機感を煽り、それに柴田勝家やお市の方が迫力と臨場感たっぷりな表情演技を見せても、肝心の本人とその周辺からは、視聴者の五感に訴えかけるようなクライシス、そしてリアリティがまったく伝わっていません。


 これは一重に、やはり『物語の根幹にある細やかな歴史公証や時代背景をしっかりと踏んだ上でのストーリー設定ではない』、つまり幻想物語…お伽話なんだという事実が根底にあるからなんじゃないかなと思います。



 ピーターパンはフック船長とハラハラドキドキするようなアクションは演じても、命を落とすような可能性も無ければ、流血や五体不具に落ちるような怪我なんか絶対負わないから、っていうのと同じような感覚なんじゃないかなとは赤髭の個人的意見。




  その、そうでなくても軽い展開に初(水川あさみ)の軽々しいお子様路線の性格付けが余計に拍車を掛けています。


 柴田勝家を父親と認めないと貫徹するなら良いですが、お菓子で心が揺らめく描写とかは物語の質を和ませる狙いやキャラクター付けもあるんでしょうけれど、その効果以上に物語の根底にある重みや雰囲気を損ねている気がします。


 07年大河『風林火山』では無常観あふれる戦国乱世の悲哀に暮れる敗北者と、そんな世相の中をたくましく生き抜いていく芯の強い女性・ヒサを演じきっていただけに、今年の大河の物語性の軽薄さが濃い陰影となって浮き彫りになっている…そんな気がしてなりません。

 
 まぁ、ファンタジーで家族愛・お姫様の激動の恋愛物語に殺伐さとリアリティを求めている歴史痛の方が、いろいろと間違っていると言われればそれまでですが。


■柴田勝家(大地康雄)+お市の方(鈴木保奈美)with佐久間盛政(山田純大)


 ここ数回での気概無さを『複線』として充分に回収してあまりある男気溢れた迫真の好演だったように思います、大地康雄さんの柴田勝家。


 ダメな時の惰弱で臆病な勝家と、真剣な眼差しで緊迫した状態にあるときとの落差が凄まじいあたり、かつて火曜サスペンスで主役を張った鬼面シリーズが思い出されます。




 前半では相変わらずお市の方や娘達に頭が上がりきらず、あからさまな拒絶を受けても苦笑して眉をひそめるしか出来なかったのが、お市の方への恋慕を口にした後あたりから江失踪までの感に見間違うほどに雰囲気が変わり、一晩中の捜索劇の末にひょっかりと戻ってきた江に対し、無言のままで顔を殴る。


 この時、平手打ちじゃなくって拳で殴った様な描写でしたが、これも個人的には高価。



 まだまだ気心は通じあっていなくても、義理の関係であっても勝家にとって『娘』は『娘』に間違いない。


 一晩じゅう暗闇の中を、家臣達も総動員して懸命に探しまわり…無事に戻っては来たけど平気で笑顔を見せている江の軽挙妄動を本気で怒り、叱りつけてやろうという態度は本当に共感が持てました。


 
  ただし…――ここで江の軽挙妄動を注意するために、

馬の世話をしていた、この者の首が飛ばされるところだった。』

としたのは少し不満が残るところ。


 
 この時代、城主の娘と馬の世話をする小物頭とでは文字通り、人間の価値というものが違います。

 この場合なら、武士にとっては戦場で駆るための大切な備品であり、武士が勲功を立てるためには必要不可欠な相棒である『馬』を逃してしまったこの馬丁の責任は重大です、っていうか即刻処刑が妥当でしょう。

 
 この当時の馬の世話をする者とは決して身分が高いわけではありません。馬の飼料である大豆を『大豆味噌が食べたい』と盗んだだけでも首を斬り飛ばされていたという今回の事件はどう考えても天秤が釣り合いません。



  
  時代考証や歴史に忠実であるなら、江が戻ったとき、彼女が目にするのは土下座する彼ではなく、冷たい死骸となって地に倒れた彼であるべきですし、死一等は減じられたとしても、そんな価値の低い下民に仮にも城主のお姫様が同じ地に手を突いて謝るなど、到底考えられないことです。


 二十一世紀の今ですら世の中は不平等不公平なのに、戦国時代の命の価値が同じであるとか陳腐な表現も良いところです。

人間、平等だと思ったらそれはえらい勘違いです…。( ;=`ω=´)


 ですが、それを差し引いても大地康雄さんの演じる柴田勝家像は素晴らしかったと思います。時代背景から言えば、いよいよ羽柴秀吉との衝突は間近に迫っていますし…その勝負の行方があまり芳しくないというのは視聴者の皆様も重々御承知のはず…。

 
 次回以降、果たしてどんな展開が待ち受けているのか。赤髭的にはトヨエツ信長退場後は一番の注目株である柴田勝家の今後は、非常に気がかりなところです…。

( ;・`ω・´)。oO(特に、賤ヶ岳以降の描写について。また信長みたいなファンタジアな最後にされたらどうしよう、本当に。)




■ さて、今回もリベラルを装った歴史痛視点(蹴)での感想でしたが…いかがだったでしょうか。

 次回予告ではいよいよ風雲急を告げる信長没後の権力者争い、勝家と秀吉の激突が見られそうな予感。


 行動を促す佐久間盛政、合戦を回避しようとする江の悲痛な叫び…果たしてその理由は、そして勝者の凱歌の行方は。次回の展開に御期待下さい。



2011年大河『江』第九回 義父の涙 感想と解説





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