■それでは、今宵も本年大河『江』の第九回『義父の涙』の感想をお届けいたします。
■柴田勝家(大地康雄)+お市の方(鈴木保奈美)with浅井三姉妹(上野樹里ほか)
相変わらず戦国大河という金看板を背負った、暖かいホームドラマ・戦国幻想物語を織り成している本年大河『江』ですが…第九回を視聴して感じたことは、やはり『物語に多少難点や支障があっても、熟練した演技力や存在感に裏打ちされた俳優さんがいると、画面の締まりや物語の楽しみかたが違ってくる』ということでしょうか。
大地康雄さん演じる柴田勝家の、一家の大黒柱であり江達にとってかけがえのない父としての顔、そして政敵・羽柴秀吉(岸谷五郎)の邪知暴虐を食い止めんとする骨太な戦国武将としての横顔。そのどちらも、大地さんの確かな『俳優力』によって非常に安心できる、家族愛や武将としての男気といった諸々のオーラが感じられました。
戦国大河は本格で重厚、歴史の威厳が感じられる一大叙事詩であるべきだと感じている赤髭ですらそう感じたのですから、大地さん演じる柴田勝家の存在感は織田信長(豊川悦司)・明智光秀(市村正親)といった大物が抜けて寂しくなりつつある物語の画・見所などを補ってあまりあるものでしょう。
まぁ、それでも…歴史痛的観点から言えばおかしなところはいくつかあります。
大河『江』の第一回に登場した朝倉義景(中山仁)をはじめ、マイナーどころでは奥さんが大活躍した冨田信高とか…居そりゃ、なかったわけじゃあありませんよ?『家族に後ろ髪を引かれていろいろとドジを踏んだ戦国武将』というのは。
しかし、いくら家族愛や江達女性視点の物語とはいえ、柴田家…御家の行く末を左右する重大な情報や軍議の決断を、江やお市が口を挟めるってのはどう考えてもおかしいですし、彼女らのワガママのせいで柴田勝家が出陣時期を逸した、と取れる物語は納得がいきません。
『心配するな、義父は戦などせぬ…。』とは、そんな家族の我侭(断言)についつい口を滑らせてしまった柴田勝家の言ですが…うーん。( ・(,,ェ)・)
それでは修理亮さん…かつて、同じ越前を支配した戦国武将…
『長男が病気だから』とか『愛妾が調子悪いから。』って理由で勝手に陣払いをして、信長包囲網から脱っしちゃったky武将…
武田信玄に『アイツは阿保か!!』と地団太踏ませたというバカ大将の代名詞・朝倉義景ともろ同じ轍じゃあありませんかッ。(*>ヮ<)っ)・ω・`)・∵;;
つい先日、豊川悦司さん・吉川晃司さんの出演という、偶然にも大河ドラマの織田信長対決となった映画『必死剣・鳥刺し』…架空の江戸時代設定ながら、びっくりするほど武士道の悲哀・男の世界に仕上がっていた名画を視聴したばかりなだけに、この皮肉な構図の陰影がもろに濃厚になってしまいます。
いくらファンタジアとはいえ、同じ『時代劇』にしてはいけないようにも感じられるほど、ええ、はい…。( =(,,ェ)=)
まぁ、勝家の本音としては『"いまは"合戦などせぬ…。』という意味もあったんでしょうけれどね。
この当時、柴田勝家は同調している織田信孝(金井勇太)や、キャスティングすらされてませんが同じ反秀吉派閥である滝川一益、対上杉戦線で頑張っている佐々成政など、勝家は親柴田家派閥をまとめ、足元を踏み固めている最中。
おまけに、戦国時代の日本は今と比較すると随分と寒かったため、この季節頃の越前からでは決戦地になるだろう、近畿中央に向けて出陣できません。
勝家の動きが鈍かったのは、雪解けを待っていたからだというのは戦国研究史の黎明期からある定説のひとつです。
もっとも、その雪のおかげで柴田勝家は人たらしの名人・羽柴秀吉に陣営を切り崩され、どんどん窮地に追い込まれていったわけですが。
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勝家が江のわがまま…もとい、雪と時期読みの判断をしかねている間に、本作内でも説明があったとおり…まずは岐阜の織田信孝が、そして北伊勢の滝川一益(名前すら言って貰えなかった…)が秀吉に各個撃破される。
だんだん負けフラグがそろって参りました。 (;=(,,ェ)=)
あと、勝家は秀吉が信長の葬儀を開催したのを聞いて驚いたというくだりもありましたが…これも歴史痛的には頂けない。
史実では、織田信長の葬儀を開催したのは勝家派閥が先のはずなんです。(1583年9月11日、秀吉主催葬儀の一日前。弔い合戦には間に合わなかったけど、葬儀の速度では勝ったんですおとうさんは。ちなみに喪主はお市の方。)
もっとも、参加した武将の顔ぶれや規模に関しては秀吉の葬儀が全然ビッグだったわけですが…。(秀吉派閥の葬儀は京都の大徳寺で、丹羽長秀ら元織田家重鎮や公家・堺会合衆ら各界著名人を集めて盛大に開催された。)
どこの誰には言いませんが、歴史物語なんですから史実の流れをアットホームの和気藹々とした暖かさでひん曲げるのはいかがなものかと。( =(,,ェ)=)
『サルめ……卑怯なり!』と、怒りをあらわにする勝家ですが…史実では手段を講じたくても出来なかったという事情や、秀吉のやりそうなことを先にやっておいて万全磐石の布陣を組もうとしていたという努力の痕跡が見られないのは、いくらホームドラマ仕様とはいえ少し、悲しいです、はい…。( =(,,ェ)=)<あれじゃ勝家が馬鹿みたいじゃないか…。
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さて、今回も歴史痛が何とか『ホームドラマ仕立ての戦国大河』に無理やり対応しようとした(蹴)感想でしたが…いかがだったでしょうか。
次回予告ではいよいよ柴田勝家と羽柴秀吉が賤ヶ岳で激突!!今は亡き戦国の覇者・織田信長の後継者…すなわち天下取りの席を掛けて、江が最後まで拒んだ『戦場』で火花を散らします。
赤髭がひそかーに登場を楽しみにしている、萩原聖人の石田三成もちらっとながら初登場。
手縫い刺繍つきのお守り袋、必ず生きて帰ると家族に誓った最後の義人・柴田勝家の生死は、そして勝者の凱歌の行方は?果たして、江は初めての父とどう相対し、勝家は…歴史はどんな結果をふたりにもたらすのか。次回をお楽しみに。
2011年大河『江』第十回 わかれ 感想と解説