2007年大河『風林山』   - 第十話『晴信謀反』 - 


 『風林火山』第10話、いよいよ信虎・晴信父子の相克は極限に達し、お互いがお互いを駿河国へ追放しようと画策するという異常事態に。
そして、その事を今川義元に依頼する密書が駿府今川館に飛びました。

・・・さて。甲斐に残るのは、甲斐を追われるのはどちらか?



今宵も視聴の感想と俳優さんの演技、戦国裏話について徒然とお話し
 していこうかと思います。それでは皆様のお時間を少しばかり拝借・・・。




■太原崇孚雪斎(伊武雅刀)
 黒くて素敵な笑顔の雪斎和尚、久々の登場。



 今回も持ち前の鋭い先見力・洞察力で今川義元(谷原章介)と寿桂尼(藤村志保)を助け、抜け目の無い策士ぶりを発揮してましたが、同じ策士である山本勘助とは明らかに雰囲気が違います。



 あの、いかにも"怪僧"って言葉が似合う粘着質な目つきが堪りません。(苦笑 

 実は伊武雅刀さんというのはアニメ『宇宙戦艦ヤマト』のデスラー総統の声をやってた声優さんでもあるのですが、あの渋い総統の声と、今のねちっこくてかつ内心の読めない雪斎和尚との落差が厳しいです。(苦笑 



 寿桂尼が『枕を並べるかと思うと身の毛がよだつ』と厭そうな顔で拒絶するのを『・・・枕を並べることはございません。』と至極当然のツッコミを入れるのも妙に印象に残りました。



 大河『風林火山』では本格派の戦国大河として深い歴史考証が入っているかと思えば、真剣な雰囲気に不意打ちをするかのような冗談を挟む描写がたびたびありましたが…これが無駄な演出かといえば、そうでもないんですよね。




甘利虎泰(竜雷太)

甘利さんが『・・・あまりに無情じゃ。』






・・・いえ、なんでもありませんよ?。(ぉぃ ( =(,,ェ)=) 絶対狙ってやらせた台詞とは思うけど。 




 若き日の武田信玄を描いた作品では、その青年期〜君主創成期に強い存在感を示すのが『武田の両職』こと板垣信方と甘利虎泰ですが…1988年の大河『武田信玄』では菅原文太さんが、本作では千葉真一さんが好演した板垣信方に比べ、甘利虎泰は扱いやキャスティングが少し落ちるポジションにあるような気がします。

 今作では『オヤジさん』役をやらせれば天下一品な名俳優・竜雷太さんが演じてくれましたが…『武田信玄』のときの甘利虎泰って誰が演ってたっけ? 
( =(,,ェ)=)っ 本郷功次郎さんです。



 晴信ともども疎まれていた感のある板垣信方と違い、信虎に『荻原常陸介の後を継いで、軍師にと思っている』と声を掛けられるなど信頼も厚いようでしたし、甲斐統一を夢見て共に戦場を疾駆した主君を追うことにかなり抵抗があるのでしょう。

 蝋燭の燈の下で見せた苦汁に満ちた顔はぐっとくるものがありました。






 また、虎泰は原作『風林火山』では「山本勘助を毛嫌っている厭なヤツ」的役どころの人物なのですが、今後勘助とどう絡んでくるかに注目です。



真田幸隆(佐々木蔵之介)
 これまた久々の登場の真田幸隆。

 村上・武田・諏訪の三方からの一斉攻撃を受けて真田の地を追われる事になりますが、敗北覚悟の篭城戦で家臣達にぶった演説が『生き残ってくれ。』…渋いッ。







 ここで涙の別離をした家臣達とは、後に意外な形で再会することになります。



 今回『敵に仕えてでもこの地で生き延びてくれ、俺は必ず帰ってくる。その時は一緒に酒でも飲もう』と涙ながらに交わした約束は、ずっと後になって複線として急浮上することになります。特に春原若狭守(木村栄)・惣左衛門(村上新悟)の泣き顔は要check。



戦国与太噺。導入部、となぜ素直に命名出来ない。(画像は斬?スピリッツより)



 幸隆が頼って落ち延びていく相手は上野箕輪城の城主・長野(ながのなりまさ)だと幸隆も言っていましたが、この業正という人物は相当な名将の一人で、後の信玄の侵攻に頑強に抵抗しその侵略を実に六度に渡って阻み、世上に『上州の(じゅうしゅうのおうはん、黄色い斑とは『虎』の事)と謳われた名将でした。


 自分に敵対する人物に対し、どちらかというと過小評価・または見下すような発言を多く残している信玄も彼の武勲には脱帽したようで、彼の居城である箕輪城を攻めあぐねたあと、

 『業正が生きている間は上野国には手をせない…。

と泣き言を言ったという逸話が残っています。



 
 真田幸隆も彼の庇護下にあって故地奪還を目論みますが、後にある人物により武田家に招かれる事になります。



 それは恩義ある業正を裏切る事に他ならなかった為、幸隆は思案の末『業正には黙って、夜逃げ同然にわが身一つで武田方に向かう』という選択肢を選ぶことになりますが、業正はそんな幸隆に、残されていた真田家の家族や家財道具と一緒にこんな手紙を書き送っています。


武田の家臣になるのか。甲斐の武田信玄と言えば、まだまだ若いが中々の大将だと聞いている。

 しっかり奉公をして故地奪還が果たせる事を願っているぞ。・・・そうそう、置いていった家財とか家族はそっちに送るように取り計らっておいたぞ。

 だがな、箕輪にこの業正がいる限りは、碓氷川を越えて馬に草を喰わせよう
(註】碓井川の東側は業正領、西側は武田領)と思ってもらっちゃあこまるぞ。』




 後に神算鬼謀の策略を駆使し、信玄の参謀格ともなった幸隆もこの洞察力には唖然呆然となり、自分の浅墓さを恥じてその場に立ちすくんだとか。




 赤髭一押しの戦国武将・村上義清も、「○に上文字」の軍旗を背負った家臣達だけが登場。とうの御本人はまだお目見えが無いですが。




さて、いよいよ次回で武田信虎は、実の息子に甲斐国から追い出される事になるのですが・・・その時の反応…とくに、晴信に対してどういう想いを抱いていたかというのが今からとても気になります。義元への書状にあった通り、本当に『うつけ者』と心底から思っているのか、はたまたそうではないのか。・・・赤髭は前々から後者だと考えているのですが…来週が待ち遠しいところです。





■今週の風林火山

【註・あくまで歴史痛の観点から視聴した個人的感想です。】

■総合 ★★★☆☆ いよいよ甲斐の親子虎・武田信虎と武田晴信の確執が終幕を迎えようという佳境。晴信擁立・信虎追放という一大決心を腹に据える板垣信方ら甲斐武田の家臣団、真田の里を捨てるも御家再興と復帰を誓う真田幸隆のひたむきさが胸を打つ。


■戦闘 ★★★☆☆ 真田幸隆一党が小県郡真田卿を捨て、包囲する村上軍に突撃を敢行する際に騎馬武者同士の戦闘描写があり。実は大河『風林火山』全編を通しても、真田幸隆が具足姿で騎乗し、合戦に望むという場面は貴重シーンだったりする。


■俳優 ★★★★☆ 仲代達矢、伊武雅刀、藤村志保といった大河ドラマ鉄板の名俳優から内野聖陽・谷原章介といった若手俳優が見事に噛み合う、演技面ではかなりの高得点が見られる回。甘利さんが『あまりに無情』とか『枕を並べて一緒に眠る』云々といったジョークをこの真剣な演技の場に挟み込む脚本さんの度胸はある意味気合入ってます。


■恋愛模様 ★★★☆☆ あの武田信虎が大井夫人に惚気るのは、あとにも先にもこの回だけ。そのひねくれた愛で方は、ある意味必見かも知れません。信虎が由布姫に見蕩れて、側室として要求するのも恋愛といやあ恋愛なのでしょうけれども…。



■役立知識 ★★☆☆☆ 今回はこれといって特になし。主に陰謀場面ばかりでお話が進みましたし、めぼしいcheck項目も少なかったというのが正直なところ。


■歴史痛的満足度 ★★★☆☆ 春原若狭守・惣左衛門兄弟の名前は真田幸隆Fanならば胸躍るキャスティングのはず。彼らが後に今回の悔しさを慰撫するに余りある大活躍をするわけですが、彼らのような燻し銀の武将をわざわざ登場させたあたりがいかにも本格派と号する大河『風林火山』らしいところ。



■次回はいよいよ前半部最後の山場、第十一回『信虎追放』。
『勘助、殺すつもりか…!?』と緊迫感あふれる声音で呟く河原村伝兵衛、ミツが編んでくれた藁の眼帯を巻く勘助の真剣な表情。無血謀反であることを強調する晴信と大井夫人の台詞、『何事なのじゃあ!!』と言葉尻をあらげる武田信虎。

 原作『風林火山』には登場すらしていないのに存在感抜群だった甲斐の猛虎・陸奥守信虎最後の雄姿になるのか。予告だけで期待感が高まる。



 風林火山紀行は山梨県/韮崎市。甲斐武田氏代々の氏神である武田八幡宮、山本勘助の所領だったと伝わる地にある宗泉院と勘助の供養塔、武田勝頼が築いた七里岩・新府城二ノ丸跡/水堀/搦手発掘作業の光景などが紹介されています。

2007年大河『風林火山』第十一回『信虎追放』  感想と解説




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