2007年大河『風林山』   - 第十二回『勘助仕官』 - 


 さて、第12回からは大河『風林火山』はオリジナルストーリーから井上靖原作『風林火山』の内容と準拠し、それを追って行く形になりますが…NHKお得意のオリジナル脚色には期待できそうです。…何せ、井上氏原作のままだと間違いも多いし、勘助があまりにも不憫で…げふんげふん。いえ、なんでもありません。(汗


では、今回も各俳優別に沿って感想と与太話を語っていきたいと思います。皆様の時間を拝借…。






■山本勘助(内野聖陽)
青木大膳に金の無心を迫られるシーンは原作通りの展開。冒頭、勘助の声が重々しく喋り方が大仰な風だったのは今回から井上靖原作『風林火山』に準拠し始めたことが大きいですが、その原作以上に勘助の策士ぶりが強く反映されています。

兵は詭道なり。』をまるで決め台詞の様に何度も呟いていたり、青木大膳(四方堂旦)が勘助を本気で斬りに掛かった処をわざと動揺して見せて鋭い竹槍衾に誘い込んだり、下手な芝居と底を明かす様な風をみせて返って板垣信方(千葉真一)の忠義を逆手にとった事、そうすれば武田方に仕官出来ると踏んだ事…全て、原作には無い脚色です。『騙り者』の面目躍如といったところでしょうか。

 …ここ暫く、NHKの脚色は厭戦平和主義だったりトレンディだったり何か少し違う角度に施される場合が多かったのですが、この脚色は歓迎です。

…まぁ、原作『風林火山』がいささか古い物語過ぎる事もあり、平成の現在に脚色なしで放映されるのには無理があるとは思っていましたが、こういった"戦国乱世に兵法と詭計だけで立身出世をしていこうと目論む、野望にぎらついた戦国武将らしさ"を表現するのというのは、見ていて自然と感情移入が出来ますし、何より無理がありません。よくやったNHK、感動したッ!!(賞賛


 晴信より一文字与えられ晴幸と名を与えられた際に『将軍から賜った一字を易々と云々…。』と家臣が諫言に走ったのも歴史痛的には『ぉ、そこを突いてきたか。』と関心する場所でした。

 いずれ紙面を割いて語りたいのですが、この武将の本名…諱名(いみな)と呼ばれるものに話題を振るとか、今年の風林火山は見た目の上っ面以上に深い点に触れている場所が多いです。


 後、甘利虎泰(雷竜太)が原作通り太刀試合に勘助を巻き込む際に、原作だと勘助はしたたかに打ち据えられながらも舌先三寸で逃げを打つのですが、何と『真剣じゃなきゃ真面目にしてられるか』と吐き捨てて言葉の発破を掛けます。

 …ですが、出て来たのは久々に存在感を示した『夜叉美濃』こと原虎胤(宍戸開)!!…新生武田家においても無双の武勲を誇る関東武者相手に、果たして勘助はどう太刀合せを演じるのでしょう?
 …そして、なんだか勿体ぶった切り方をされた気がします。前半と後半を盛り上げたまま終わらせる、というのトレンディドラマの手な気がしますが、気にしない方向で。



■青木大膳(四方堂亘)
 井上靖原作『風林火山』は、彼の人となりを説明する一文から始まります。大河では『駿河大乱』で北条軍の尖兵として登場、北条家では禁じられている乱取り(略奪)を働いたり、勘助と北条氏康を出会わせる契機となった家臣内通情報を漏らすなど、今まで度々にわたって登場していました。

 『男前で腕も立つけど、なんだか厭らしい殺気みたいな物があって、家中の者に嫌われた』という、原作の描写そのものの佇まいですが…勘助の企みに気づいて勘助に斬りかかり、慄いて逃げ腰になった勘助を狡笑しながら追おうとして逆に誘い込まれ、竹槍衾を思いっきり踏んづけるというポカをやらかす場面などは、当に剣の腕に溺れて敵を見誤る小者っぷり。微笑ましく見させて頂きました。(苦笑

 孫子の兵法で言うところの、『敵を知らず、己も知らない者は百戦したって勝てやしない。』といったところでしょうか。

…なお、原作では板垣信方を襲う狂言において、勘助だけが裏切って本気で切りかかって、動揺し命乞いをする大膳を一方的に切り捨てます。…勘助、黒い。(ぁ


■板垣信方(千葉真一)
その勘助と大膳の茶番劇、しっかりサニー千葉は見抜いていました。(苦笑

 相変わらず、必要以上にかつ素敵なまでに刀捌きが巧みです。『…三途の川の手前で、待っておれ…。』と不適に微笑み、晴信推挙をしてやったつもりが…勘助に上手く策に嵌められたと判った知ると『…やりおったわ。』と言いたげな表情を滲ませました。…良い俳優さんというのは、眼つきや顔に宿る気魄が違いますね。

 なお、原作では勘助の茶番劇を間に受けて、さらっと彼を武田家に推挙しています。…そんな間の抜けたサニーは見たくなかったので、まぁ何と言うかNHK脚本グッジョブ。(´・ω・`)bそ


■春日源五郎(田中幸太朗)
『戦国三弾正』『武田四名臣』の一人として後に武勲を挙げる事になる春日虎綱、別名高坂昌信の若き姿です。勘助も思わず頬を掴んで『…なかなか良い面構えをしている…。』と囁かずには居られなかったようです。…その時の狼狽ぶりが、また良いッ。(何




 …後に衆道(男性同士の関係)で晴信と浮名を流したとも詠われた通りの見事な美少年振り、全国の奥様も注目です。

 見ての通りの颯爽とした若武者を、晴信は特に寵愛し小姓として重く用いたそうですが…晴信が別の"彼氏"に浮気をした事を知るや否やすっかり拗ねてしまった、というエピソードがあり、晴信は彼に当てて

あいつと一緒に寝てなんかいないよッ!迫られても、『腹痛がある』って言って今まで拒んできたんだよ。本当に!!嘘じゃないよ、天にも諏訪大明神にも誓ったっていい!!!

 という内容の手紙を書いたという話が残っています。(苦笑…さらに何がこっ恥ずかしいって、その手紙が今の世まで現存してしまったことでしょうね。(爆)…信玄、今でもあの世で悔やんでることでしょう…若さゆえの過ちってヤツを(^^;


■甘利虎泰(竜雷太)
『…とぉんだり者と見受けまする。』

 …はい、皆さんもお分かりの通り、彼が豊臣秀吉でいう処の柴田勝家のポジション、今風に言えば『目下の者の才気活発ぶりが気に喰わないから色々難癖をつけるヤな上司』のポジションです。

 …武田家先代の信虎に『荻原昌勝を継ぐ武田家軍師の座は、お前しか居ない。』とまで言われた歴戦の戦巧者であり、武田家の二大重役『両職』の一人としては、突然振って沸いてきて、主君の晴信の寵愛を得た『無戦の自称軍師』が気に喰わなくて仕方ないのでしょう。…焚火に照らされて狡猾に微笑む顔が何とも言えません。(苦笑


■原虎胤(宍戸開)
 生涯望んだ合戦は38度、全身53箇所の刀傷、矢傷を持ったという武辺者が多い武田家の中でも屈指の戦歴武勲を誇る『鬼美濃』こと原虎胤です。


 88年の大河『武田信玄』においては"エースのジョー"の通称で知られた宍戸錠が戦歴通り古傷だらけの悪役顔で好演したことが思い出されますが、今年はその鬼美濃を宍戸錠の子・宍戸開が務めます。…ですが、かつて親父さんの演じた際にその顔を覆っていた古傷が一箇所たりとも見られません…。だ、なんて言ってみると気づけば主役の勘助の顔にも醜悪とまで嫌がられた無数の刀傷が無く、隻眼も眼帯で覆われています。


 …たぶん、何らかの方面に配慮しての事かとは思いますが、宍戸開さんの二枚目の優男面では今ひとつ、歴戦の勇者って感じが出ていない気がしますけども…。

これから、奥の深い味わいが出てくるのかも知れませんが…何だか来週には勘助と斬り合いも演じるようですので、よーく重視して味の見所を引き出してみたいと思います。

 …なお、原作ではさっぱり目立ちません、鬼美濃。…武田家の家臣の中では結構逸話挿話も経歴も見所のある人物なのですが…NHK脚本は数あるエピソードをどれだけ見せてくれるのでしょう。


今回からいよいよ武田家家臣として、軍師として辣腕を振るうことになる勘助。次回には斬り合いも合戦もあるようですし、ますます目が離せません。


■今週の風林火山
【註・あくまで歴史痛の観点から視聴した個人的感想です。】




■総合 ★★★★☆ 完全オリジナルだった前半部から一線を隔しつつ、本格歴史派大河であることを再確認させる分厚い内容。


■戦闘 ★★★★☆ 久々に鋭過ぎる千葉真一の太刀周りが演じられる。策を弄した勘助の怯え様と調子にのった青木大膳が罠に嵌まった瞬間も見逃せない。


■俳優 ★★★☆☆ 『乱捕り侍(笑』と某所掲示板で当時一世を風靡した四方堂亘さんの青木大膳が印象的です。


■恋愛模様 ★☆☆☆☆ それっぽい雰囲気は感じられず。


■役立知識 ★☆☆☆☆ 今回は勘助と板垣・晴信らとの知恵比べが物語の重点だったせいか、とくに気にかかった面は無し。


■歴史痛的満足度 ★★☆☆☆ あまり高得点だと思わせる描写は無かった。強いて言えば、ただ脈絡もなく斬られるだけに登場した原作の青木大膳に厚みを持たせるため、乱取りが好きな暴れ者的雰囲気をこれまでに張った点だろうか。当時の足軽の雰囲気を良く醸し出していた演出だとは思う。


■次回は第十三回『招かれざる男』。足が悪いはずの勘助が見せる脅威の大飛翔、三条夫人に疫病神扱いされる勘助とそれを否定する晴信の一喝、そして諏訪頼重の余裕ぶっちゃらかした狡猾な笑みが印象的な予告。



 風林火山紀行は山梨県/身部町。日蓮宗の総本山・久遠寺や湯ノ奥金山と甲州金、『信玄の隠し湯』のひとつとされる下部温泉郷などが紹介されています。

2007年大河『風林火山』第十三回『招かれざる男』 感想と解説





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