2007年大河『風林山』   - 第十五回『諏訪攻め』 - 


■今回も再び『風林火山を語るclassic』。当時の赤髭の恰好つけな稚拙文章のままお届け致します。取り敢えず読んでニヤニヤするのが正しい楽しみ方です。(何

 
こんにちは。最近、見た直後の更新を諦めつつある赤髭です。(弱ッ。

今回は放映して二日も経った後の更新ですが、遅くなった分いつもより歴史的与太話色を濃厚にお送りしたいと考えております。

■もう投稿が遅れるようになってたんですね。( ・(,,ェ)・)


 結構な長文でかつ乱文乱筆になりますが、謹んでお納めくださいませ。…それでは、皆様の時間を少々拝借仕るッ。




■山本勘助(内野聖陽)
今回の勘助は文字通りの神算鬼謀、信玄の信頼に足る名軍師振りを遺憾なく発揮してくれました。


甘利虎泰の憤怒の咆哮も何処吹く風、返って主君の信頼を厚くし、甘利に苦虫を噛み潰させる、鮮やかな策の切れを披露します。


 この時代には常套手段なのですが、諏訪家に嫁いだ妹が生んだ赤子を奉じて諏訪家を乗っ取る為の算段や、前回に景政と組んで仕掛けた策が外れてしまっても冷静沈着、怜悧なまでに状況判断し、出陣約定を違えた高遠頼継を炙り出す策と、寡兵を率い決死の覚悟で突撃してきた諏訪頼重を撤退させる策を見事に連動させるくだりの手管は見事なものでした。


 また、教来石景政の諜報活動が露見した際にも信頼を得るために、あっさりと粛清に踏みきった徹底した策士振りも見事でした。


 …刀を振り下ろした時、頼重から『やめよ!!』と静止された時の修羅の形相を見ても、多分これは本気で斬るつもりだったのでしょう…。恐ろしい迄の斬れの鋭さです。
■今読んでみるとすさまじくかっこつけーな文章。(´⌒;;;≡≡(っ・(,,ェ)・)っ


 後の世に『甲斐の虎』と謳われる名将になるとはいえ、まだ成長していく過程にある若き晴信には、勘助の先の先…人の心の裏側まで読み切った…恐ろしいまでの遠謀深慮は、文字通り『悪鬼』に見えたこと間違いなし。


 書面の上での策略劇しか演じた事が無かったであろう勘助も満足の行く出来だったのでしょう、まるで悪の軍事参謀が含んだ様な会心の笑み、哄笑とも見えるような凄絶な笑みを見せてくれました。(苦笑 


 …大河の主人公が、こんな邪悪な笑みを浮かべるだなんてシーンが今までにどれだけあったでしょうか。( ;・`ω・´)
■そもそも内野さんの笑顔からして黒いから、策士なんか演じさせたら。 ん、誰ですかこんな時間に。



 計算ずくで張り詰めた計略の落度や、読み損ないがあっても糞落ち着きに落ち着き払った態度…立て板に水を流すような懸河の弁の冴え渡りも、赤髭的には刮目すべき点でした。


 歴史痛的イメージとしては山本勘助というのは『城の縄張りや軍兵の統率を計算ずくに組み立てていく、鉄面皮で寡黙な老人』といった風の感じが強かったので、策が外れて窮地に陥っても、敵地に乗り込んで臆する事無くつらつらと流麗に言葉を紡いでいくオットコマエの勘助というのはとても斬新に思えました。


        
 …この場を借りて下らない予言をしておきましょう。

 大河の影響を受けやすい某歴史SLGの老舗が『信長』最新作を発売すれば…きっと勘助は、今までとは違う…男前になってるでしょう(ぉぃ

■信長の野望・天道の山本勘助の顔グラフィック。

         

 ええ、モロに影響は受けてますね。そもそも某社の戦国SLGの顔グラは色んなメディアから材料を拝借してます。
 池上遼一先生の漫画『信長』からが目立ちますが、NHK出版の『NHK大河ドラマストーリー』シリーズの役者さん写真からの拝借も多いようです。下のキャラ絵は『太閤立志伝5』の鵜殿長照ですが、どこかで見たことがありませんか…?

         




■武田晴信(市川亀治郎)
若殿時代にはどこか頼りない感じがしていた市川さんですが、だんだん武田の総領らしい貫禄が出て来た様な感じがします。


 かつて勘助を『使いこなしてみたいものじゃ…。』とその才を評価していた晴信ですが、諏訪家に嫁いだ妹が生んだ乳飲み子が男児と判るや、何の躊躇も無くその妹婿を粛清し、総領位を挿げ替えるべしと進言した勘助の非情なまでの切れには自分の予想以上の器量を感じて少々は驚いていたんじゃないかなーと思われます。



 『…悪鬼に見える』と呟いたのは恐らく本音だったんでしょうが…配下に思惑を見抜かれるようでは戦国乱世の大将は勤まりません。
■勘助は黒くない。たぶん内野聖陽さんが黒い。(暴言


…咄嗟に、前回見せたような頓知諧謔を利かせて『…儂の迷いなどではない…単なる見た目じゃ。』と勘助を煙に巻いてしまいます。


勘助も食わせ者ですが、晴信の器量も底が知れません…。
 この構図は、戦国慣れしておらず人の性根の奥底を読みきれなかった諏訪頼重とは好対照を成しているような気がしますね。



 しかし、武田騎馬軍団の神速の兵法を支えた伝令将校達である『百足衆』をちゃんと描写するとは驚きました。
■むしろムカデ衆を無視する武田信玄モノの方が珍しい。当時の私は考えて文章を作ってない。今もそうですけど。
▲けど江を観て思い知らされた、上には上が居ると(ぼそ。


 …以前、信濃海ノ口城攻めでは甲斐の金山で穴掘りを得意とする金掘衆を駆使した土竜攻め(もぐらぜめ)など、甲斐武田家自慢の特殊部隊を描写に取り込むこともありましたが…場面展開の合間にこういった歴史痛的知識をくすぐる描写を入れるあたりは、敷居が高いとは思いますが非常に興味深いです。


■教来石景政(高橋和也)
 後に信玄にも『さすが儂より歳上の大将じゃ。』と賞賛され、長篠・設楽ヶ原の壮絶な銃撃戦でも羅刹の奮闘を見せた後の『不死身の鬼美濃』こと馬場美濃守信春の若き日の姿です。
■パタリロがほめてくれそうな説明的文章。


 後に武田家四忠臣の筆頭格として、信玄の厚い信頼を得ることになる大剛の智将ですが、近年の研究では『実名が景政・信房・信春と多数ある上、それが何時に改名したのかもはっきりしていない』『武田家の元勲でありながら今の世に残った発信文書が殆ど無い』『山本勘助と同じく、"甲陽軍鑑"以外では活躍が語られていない』事などから、実在が危うくなってきている武将の一人でもあります。
■信用できる文章に出てない=実在しない。は歴史考証の上では暴挙じゃありません。そもそも勘助が実在しない人物といわれるようになったのは、歴史考証学の権威と呼ばれた渡邊世佑という方が『勘助は信用に値する文章に出てこない。よって架空の人物である。』と断言してしまってから強まった風潮です。

 ちなみに信用できるとされる文章は『当時の上流階級の日記』や『受給・発給文書』など、ウソをつく必要性がない記録。『○○大名家公式文書!!』とかになると、かえって脚色や虚飾、下手するとフィクションが入りますので。


 若年時には山本勘助に築城術を教わり、小幡虎盛に甲州流軍学を教わっていたという挿話がある景政。


 どうやら大河『風林火山』では、勘助と一緒に行動していくことで成長していく様が描かれていく様子ですが…。今回は、間者としての臭い演技が光りました(苦笑


景政『ぉぉ!!…飯富の赤備に、甘利の軍勢ッ…。
   …あれに見えるは足軽大将の鬼美濃じゃぁ!!
   …とても、太刀打ち出来ぬ…。
   …諏訪もッ、これまでじゃのぉぉ〜;(;゚Д゚)』


平蔵『何を言う、これからじゃ!!』


景政『これまでじゃぁぁ〜;(;゚Д゚))))』


平蔵『こぉれからじゃッ!!おい、こらぁッ!!!(;>ヮ<)』


 こんな臭い世迷言だけで逃げる足軽衆も足軽衆ですが…打つ術も無く狼狽するばかりの平蔵も、晴信や勘助とは違って凡庸な器量しか持ち得ない者の悲しさが良く現れていますね…。



 もっとも、騙している味方に気取られたり、後をつけられる様な恐れのある場所で内通の情報を漏らす辺り、まだまだ景政も思慮が浅いですが。(ぉ


 あとで頼重の前に引き出された姿を見た勘助は、一寸の躊躇も無く『敵方に裏切った間諜である』と粛清に踏み切る鬼謀を見せてくれましたが…景政が彼の域に達するのは何時のことなのでしょう…。
■歴史ゲームの評価なら、最近では馬場信春のほうが勘助より強い。


■諏訪頼重(小日向文世)
 関東管領上杉家の挙兵を上手く利用して、佐久郡を切り取った手管までは見事でしたが…海千山千、心の裏の裏を探り合う戦国乱世を渡っていくにはまだまだ未熟すぎる、優柔不断で判断が裏目に出る心理描写が目立ちました。

■小日向さんも舞台からの叩き上げ、実力派俳優。優柔不断な頼重役から2時間ドラマサスペンスドラマの刑事役まで幅広くこなします。このときは若殿様の頼りなさが実に画になってました。



 余談ですが、晴信は1541年(天文9年)…つい先年に甲斐武田家の総領になったばかりで、武門の大将としての経験も浅いですが、この頼重もそれは同じ事で、彼が諏訪家の総領となったのは1540年の事でした。



 諏訪家の先代・諏訪頼満(すわよりみつ)は、僅か10歳の時に父親と兄を親類縁者である高遠家に討たれるという戦国の悲哀を味わいますが、そこから捲土重来し外交術と兵火を駆使して諏訪家の勢力を拡大し最盛期を演出します。
 仇敵関係の高遠家・高遠頼継をも討ち従え、信虎率いる甲斐武田家とも、盛んに剣戟を交えて争った名将でした。


 『諏訪家中興の祖』と讃えられた諏訪頼満、諏訪頼重はその『孫』にあたります。


 1540年(天文8年)に頼満が逝去したことを受けての家督相続でしたが…"子"では無く"孫"であり、歳が若かったゆえにこの祖父の器量を、祖父の家中掌握術を、後継者教育を満足に受けられなかった事が、頼重の不幸でした。


 さらに、家臣達の心を掴み父親を追って家督を襲封した晴信と違って、頼重は祖父の築いた栄光とその残照を安穏と受け継ぐ形で諏訪家の家督を継承しました。この点で既に、頼重は君主となる上で味わった苦渋の量や、人を見抜く力を育む機会が乏しい事がわかります。

 自分を支える事になる親族達…諏訪満隣(小林勝也)や諏訪満隆(牧村泉三郎)らはみな年長であり、頼重はその意を汲まぬ方針を強く打ち立てる事は出来ませんでしたし、高遠頼継は諏訪家の片翼を支え臣従してはいるものの、頼重を立てる気など無い野心家でした。



 案の定、頼重は決死の突撃敢行を宣言するも満隣・満隆に諌められては強行は出来ませんでしたし、その意気も妻子に後ろ髪を引かれて萎えてしまいます。
■ちなみに『嫁や子供が惜しくていくさ人やってられるか!!』は賤ヶ岳の七本槍筆頭・福島正則の言葉。ちなみに正則が怖いものは、奥さん(ぉ?


 高遠頼継が頼重に叛意ありと密告してきたと唆されれば、言葉の裏を読めずにすんなり信じてしまいますし、武田家の謀略の証である尻尾・教来石景政を掴んだにも関らず…処断すると鬼気迫る形相の勘助の繰言にはあっさりと自分の不才を認めてしまい、晴信・勘助主従の心が読みきれませんでした。



 次週予告で『儂に腹を切れと言うのか。』という意味深な台詞が流れましたが…この若き諏訪家の総領の最後はどう描かれるのでしょうか。海ノ口城の平賀源心入道の描写も秀逸でしたが、次週も期待大です。
 
■高遠頼継(上杉祥三)


…いや、旨そうに飯食ってる場合じゃありません。(苦笑)


 武田家の力を利用しようと企み、もっとも良い好機を伺って出兵を渋った結果が失敗とくれば小悪党としては我慢ならない所でしょう。…後の祭りの地団駄踏み、高遠蓮蓬軒(木津誠之)との責任のなすり付け合い…ぁあもうダメだこのおっさん二人。
■これは上杉さんが小物演技上手過ぎるせいかと。どんな役をさせても形に嵌まるという特殊能力をお持ちの様子。実力派俳優を揃えた、と豪語する『風林火山』ならでは。


小者臭が強すぎてクラクラします。(苦笑 晴信・勘助主従を手玉に取るにはもう3・4枚役者が違ったと言ったところでしょうか。



 彼らの末路がどうなったかは、意外な事に番組最後の『風林火山紀行』が全力でネタバレさせていましたが、所詮は取るに足らない浅墓者二人、視聴者の方々にはどーだっていいと思われたのでしょうか。…不憫たぁ思いませんが(苦笑。



 ネタバレついでにもう一丁。…実は本日、4月17日は…(註・旧暦換算になるので厳密には違うのですが)462年前、この頼継が居城であった信濃高遠城から逃げ出す羽目になったその日だったりします。(爆
■2007年当時。この文章が再掲されたのは2010年12月12日。長宗我部元親の嫡男・長宗我部信親の命日=戸次川の合戦が起きた日。長宗我部Fanの皆様は合掌を。仙石秀久Fanは反省を(何様。


 …ぁ、騙り者の古狸、徳川家康の命日でもあるのか…まぁいいや、高遠頼継以上に(暴言。


■由布姫(柴本幸)
いよいよ『風林火山』のヒロインの輪郭がはっきりしてきました。


井上靖原作『風林火山』では、戦国武将達の兵法謀略には長けていても…ナントカと秋の空はさっぱり読めない勘助を大いに翻弄する才女振りを発揮するのですが、その勘の鋭さ、気丈夫さは今回の放送でも良く描写されています。


 諏訪頼重ら諏訪家の重臣が揃って騙される中、後光(?)を伴って登場し、薄ら笑いをうかべる勘助を『…醜い悪鬼じゃッ。』と鋭い舌鋒で斬り捨てる様は、顔に見合った気丈夫ぶりでした。(汗


 …以前、赤髭は『諏訪御寮人(すわごりょうにん。由布姫の通称。実は由布姫という名前は井上靖の創作で、実際の彼女の名前ははっきりと判っていません。ちなみに"御寮人"とは『美人』という意味。)の薄幸さ、儚さを演じるにしては柴本さんでは雰囲気が強すぎる云々…』などと申しましたが、よく考えて見なくても…


 『風林火山』の諏訪御寮人というのは気が強く快活で、好色な信玄、朴訥な勘助の思惑を十二分に利用しながら双方の真意を引き出す術に長けた人物であり、一般に言う『悲劇のヒロイン』型には素直に納まらない人物像でした。


 …歴史痛的イメージには沿わなかったのかもしれませんが、これはこれで嵌り役だったのかも知れません。


 気丈夫さだけではなく、その強がった一面に隠れた由布姫の悲哀を演じきれるかどうかが見所ですが、その場面は早くも来週には訪れる模様。要チェックです。


■平蔵(佐藤隆太)
当に生き馬の目を抜く激動の戦国時代を勇猛果敢に、時に知略策略を駆使して生き抜いていくだけの実力・器量を兼ね備えた『大将達』からの視点ではなく、一人の…若者の視点から描写するためには欠かせない人物です。


 …決して勇猛でもなく、思慮深くもなく、果断でも無い。


 けれど、私達視聴者に一番近い始点から『風林火山』の世界を見つめる平蔵は、感情移入も容易ですし今後の物語を見ていくにあたっても重要なキーパーソンと言えます。


 勘助との友好関係が半ば破綻しかけている描写も描かれますが、次週以降の彼の動向はどう移り変わっていくのでしょうか。



 さてさて、次週はどうなることやら。

2007年大河『風林火山』第十六回 運命の出会い 感想と解説





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