さて、新年最初の更新になるのですが…大河『風林火山』の感想、実にいまだ第十七話。
あと一週間強ほどすれば、本年大河が始まってしまうのですが…果たして、こんなペースで全五十話の感想&ガイド的与太話を全完了することが出来るのでしょうか。(;・(,,ェ)・)
年明け早々、暗雲の予感を感じさせつつ…今年の好調不調吉兆凶兆を占うであろう本年最初の『風林火山』と戦国を語る。復・刻・版、スタートです!!
■山本勘助(内野聖陽)
隻眼の悪鬼の神算鬼謀、諏訪大明神が誇る御加護の楯を穿つ。前回、諏訪大祝家を滅ぼす事に成功しましたが…。
…しかし、城攻め前には諏訪一族は撫で斬りが必定と言って憚らなかった勘助が…生きたいと強く願う由布姫を前に、突然に殺意を翻す。
そして、姫には諏訪の血を捨て、一介の市井の女人として生きるように促します。
そうすることが、その貌に摩利支天を…かつての思慕の人・ミツの姿を見た、由布姫の命を奪わずに『…禍根を、残すな。』と命じた御館様の意思にも反しない絶好の妙案だったからでしょう。
…しかし、今度は勘助の深慮遠謀をその御館様が阻みます。『由布姫を側室にしたい、甲斐へつれて来い。』というのです。
…自分がかつて夢を描き、愛情を注いだ女性の生まれ変わりとしか思えない美しい姫が…自分の前から居なくならずとも『禍根を残さないで』甲斐で生きられる。
…あまりにも急転直下な展開に勘助が想わず口走った言葉が
『そんなことがあるか…ありうるかぁぁッ!!(
;・`ω@´)』。
…謀計詭計を駆使する騙り者の勘助が、御館様の心理を読みきれずに計算違いを起こしました。
…嬉しくもあり何処か嬉しく無くもある、複雑な計算違い。
由布姫の前では甲斐武田家に忠実な、羅刹の策略家の顔しか見せる事のない勘助ですが、『運命の出会い』以降、確実に由布姫に惹かれていっています。
勘助は騎馬を駆り夜の暗闇を疾走、由布姫を襲う不埒者達を鬼気迫る行流の剣閃で斬り捨てる。
…由布姫にとって白馬の王子様ならぬ青鹿毛の悪鬼様。…勘助を信頼し、心の底から信じようとしていた由布姫を前に、勘助は…悪鬼の名に恥じない怜悧冷徹な心を以って姫を絶望の底に突き落とします。
『甲斐へ、お連れいたします。』
…勘助の心変わりを責めなじる姫の顔を直視出来ない勘助。おそらく、それは眼帯を切り落とされ露わになった醜い顔を隠す為ではなく、由布姫の指摘が、間違いない事実であるからでしょう。
前回、教来石景政が勘助を『勘助は人では無い。主君のためなら、人の心を捨てる…』と評した通り…勘助は、主君の為なら人の心も、信義も…そして、自分すらも捨てられるのでしょう。
…もっとも、それは思慕の想いを持つ姫の信頼を裏切る苦渋に満ちた決断でしょうが。
…感情を昂ぶらせて落涙する由布姫は、そんな勘助の深層心理を知ってか知らずか…その心が刀疵だらけの隻眼の顔より一層に醜い、と鋭い舌鋒で斬り裂きます。
…その面影に摩利支天を見、愛した女性の記憶と色濃い既視感を残す少女に突き放される寂しさは…晴信に忠義を尽くして…人であることを捨て、策謀の悪鬼羅刹として生きる事を心に刻んだ勘助にも強く響いた事でしょう…。
心の拠り所であった摩利支天に軽蔑され、眼帯を引き毟って憤る勘助の隻眼に宿った怒りは、何に対するものだったのでしょう…。
■飯富源四郎(前川泰之)
風林火山の"侵略する火"、紅蓮の炎の如く真っ赤な具足に身を包んだ赤備衆を率いて甲斐武田騎馬軍団の一番槍を担い続け、信玄も全幅の信頼を置いたという戦国史上屈指の猛将・山県三郎兵衛昌景の若き日の姿です。
大河『風林火山』には既に数回前の放映から登場していた源四郎君。
…いつも、座ってばかりでしたのでわからなかったのですが…今回の放送序盤で、兄(近年の研究では叔父であるという一説もあるようです。)の飯富虎昌(金田明夫)と並んで立っているシーン…。
そのツーショットを見て、赤髭が思わず口走った一言が 『"武田の小男"、でかッ!!?Σ(;゚Д゚)』でした。(苦笑
源四郎を演じる前川泰之さんは身長186p、好ルックスと笑顔の魅力的な新進俳優であり、以前は日本を代表する男性モデルさんだったという事ですが…実は、飯富源四郎とは決定的に相反するものがあったりします。
昌景は常勝武田軍団の中でも猛者揃いであった赤備衆を率い、1573年の三方ヶ原の合戦では勇猛果敢なる三河武士団で編成された徳川家康軍を撃滅。武勲で鳴らした家康を浜松城に遁走させます。
浜松城に逃げ帰った家康は、山県昌景を
『…恐ろしい男よ…。ガクガク((((((
;゚Д゚)))))ブルブル』
と評価し、甲斐武田家滅亡後には旧山県家家臣団を積極的に雇用。寵愛する重臣の井伊直政(いいなおまさ)の部隊に配属、『武田の赤備』を麾下に再現するほどの入れ込みようでした。
…狸に虎の兵法が真似出来るもんかい。(暴言 (*゚∀゚)
そんな輝かしい武勲に彩られた花も実もある戦国武将・山県昌景ですが、
実は『非常に背の低い人物であった』事が今に伝えられている人物の一人だったりします。
豊臣秀吉、伊達政宗、加藤清正に石田三成…そして上杉謙信。イメージとは裏腹に実は背が小さかった、という戦国武将達は割りと多いのですが、昌景は中でも際立っています。
…山県昌景の身長は実に130〜140p程しかなく、おまけに顔には兎唇 (としん。正確には口唇裂と言い、先天性奇形で上唇もしくは下唇の中心が裂けてしまっているものをいいます。 戦国時代では、この兎唇を持ってうまれた者は大変な武辺者に成長するという言い伝えがあり、一種の縁起物として扱われていたそうです。)があり、風采の上がらない醜男であったと伝えられているのです。
外見的には歴史上での山本勘助に通じるものがあり、逆に前川さんとは素敵なまでに正反対であったりします。(´・ω・`)ショボーン
今の時点で飯富源四郎君は14歳。…後に常勝無敗、武田騎馬軍団随一の大将となる少年は今後どういった役割を果たすのでしょう。
太郎義信の傅役に任じられた兄虎昌の動向ともども、今後の『風林火山』を視聴する上でも要チェックです。
■高遠頼継(上杉祥三)with高遠連峰軒(木津誠之)
はぃ、今回もやって参りました"諏訪大明神も勝利の女神も自分達の味方と思い込んでる"、いかりや&仲本も真っ青の馬鹿兄弟の登場です。(ひでぇ。(;゚Д゚))
前回、甲斐の若虎を欺き利用する事で諏訪総領位・諏訪大社大祝の座を狙ったつもりが、物の見事に当てを外し…諏訪家の領土の寸部と、『裏切り者』の汚名ばかりを喰らわされてしまいました。
自分の行った裏切りを神棚に祭り上げて晴信を口汚く罵る高遠兄弟。この野望深き小者達がこのまま黙っている筈もありません。
狐の皮を被っていた狡猾な狼が、一気に牙を剥きます。
…晴信が諏訪から躑躅ヶ崎へ引き上げた間隙を縫って、未だ甲斐武田家に心服しない諏訪西方衆ら不穏分子達を統括して挙兵に踏み切りました。
…が、狼の牙が虎に剥いたとて何するものでしょう。
鎌を振り上げた蟷螂は甲斐武田騎馬軍団の轍に軽く一蹴され、高遠蓮蓬軒は敢え無く…いえ、あっさりと討ち死にを遂げてしまいました。
悪企みの相棒を失った事を知った頼継の驚愕の顔、ひン捻った眉毛の角度が何とも言えません(苦笑。泡を喰った高遠頼継は居城・高遠城を、伊那を捨てて落ち延びます。
裏切り者の末路やかくの如し。甲斐武田家家臣団の末席で満足してれば良かったものを(苦笑。
しかし、意外かも知れませんが…彼の復讐はまだこれで終わりません。
この狡猾な狼に、弟・蓮蓬軒の仇を討ち、高遠城に返り咲く日はやってくるのでしょうか?
…いや、視聴者の皆さんは誰もそんなコト期待しちゃいないでしょうが。(ぉ
■由布姫(柴本幸)
回を重ねる毎にヒロインとしての輝きが増していく由布姫ですが、柴本幸さんは今回も様々な感情表出とその昂ぶる様を余す事無く演じきっています。
…カメラ映えについては良し悪しが分かれる顔立ちをしていますが、何れの角度からも映えるのはその意思の強さを思わせる瞳の強い視線に尽きます。
二転三転に惑い動く勘助の心の真実の思惑と、顔の疵を覆い隠す眼帯の如くその思惑を覆う武田家の策略家としての思惑…そのすべてを見透かしているかの様な強い瞳の眼力。
新人俳優らしからぬ風格と、戦国の悲劇に翻弄されながらも強く生きようとする、悲劇の姫君の風格が強く映し出していると思います。
当初の赤髭の不安など全くの杞憂だった様ですね。
…いや、だから碌にドラマも俳優も知らない歴史痛が、俳優の良し悪しを断ずる事自体おかしいんだって(
・(,,ェ)・)
由布姫の神秘的な眼力は、これまでの話の流れでも特異的でした。
戦国武将である父・諏訪頼重ですら見通せなかった晴信、勘助、高遠頼継の思惑を看破し、隻眼の悪鬼の鬼謀すらも奥底まで見透かしましたが…今回ばかりは、勘助の不可解な心移りが『自分の身を想わんが為に生じてしまった矛盾』であること迄、見透かすことが出来ませんでした。
最後は勘助に対し完全に心を閉ざし、摩利支天の像も勘助に投げつけて『それを、捨てよ。…そなたの信じる神など、私には無用じゃ。』と冷たく放言。
…由布姫を助けたい一心で悪鬼羅刹に徹した勘助の苦渋の表情、暗い憤りが目に残るラストシーンとなりました…。
摩利支天が戦国武将達に戦勝祈願の神として信奉されるのは、現世での摩利支天の象徴である陽炎(かげろう)が"絶対に傷つかない為"だからですが…
晴信への絶対の忠義と、由布姫を想う心との葛藤で傷ついた勘助の心に、再び摩利支天が舞い降りる事はあるのでしょうか。
2007年大河『風林火山』第十八話 生か死か 感想と解説
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