2007年大河『風林山』   - 第十九話 呪いの笛 -


■ 様々な人達の紆余曲折、心模様の移り変わりの末…ついに由布姫は晴信の側室になることを許諾する。生きるために、運命に身を任せて甲斐武田家に入る決心をした亡国の姫、そして愛する人の心の移り変わりに嫉妬で身を焦がれそうになりながらも正室の矜持を保とうとする正室の貴婦人。

 槍や策謀だけでは片がつかない、深い心の闇の奥底での戦いを描いた回。


■山本勘助(内野聖陽)
諏訪頼重、高遠頼継ら武田家に仇なす敵対者達を次々と屠ってきた隻眼の悪鬼の神算鬼謀も、敬愛する御館様の思惑と、一筋縄ではいかない複雑な女心の裏奥底を見透かす事は、さっぱり出来てないようです。(苦笑



『されば、わざとあの様に下手な歌を…。』

ざとではないッ。( *・`ー・´)』

…わざとじゃないないでしょう。(爆 

…まぁ、飽くまで赤髭の主観ですが…。


 父親・武田信虎の仕打ちの裏に屈折した親心を見出した鋭い洞察力…怨讐に凝り固まり、復讐鬼と化した勘助の羅刹の心情を読み取った深慮の眼を備え、若くして孫子兵法十三篇を極めた大器を持つ晴信なのです。この程度の策略はお茶の子さいさいといったところでしょう。



 幾ら摩利支天の遣いと見間違うほどの聡明な器量を持つとは言え、由布姫はまだ15歳に満たない少女に過ぎません。どこをどう突っ突けば天の岩戸の如き堅い殻に凝り固まった彼女の心を開かせる事が出来るかなど、晴信にはお手のものに違いないのですから。(苦笑



 巧みに本音を隠蔽する御館様の話術に上手く翻弄されて、狼狽しっ放しの勘助。…戦国を疾駆する隻眼の謀略鬼・山本勘助の智謀も、心服止まない御館様だけにはどうも通じないようです。

 そして、勘助の智略がまったく発動せず、少し当て外れな方面に働いてしまった相手が三条夫人でした。三条夫人から由布姫を護ろうと立ちはだかった醜悪な隻眼の鬼神に全く畏怖する事無く論破されてしまい、目通りを許してしまった時の勘助の眼光は…敬愛し忠誠を尽くす御館様の夫人に向ける眼とは到底に思えない程鋭く…まるで、御館様に弓引く怨敵達に向けられた…鋭い軍師の梟眼そのものです。

 その三条夫人が、由布姫に正室としての心構えの広さを見せ…甲斐武田家を、総領晴信を想う心を余す事無く伝えてくる、という居意外な行動に出て、感銘を受けている由布姫の前で…三条夫人が置いていった笛を念入りに調べます。


 …見て、触って、振って…執念が篭もっているかの様な念入りな調べ様は、まさに敵の裏を読む軍師の仕事振りです。




 …赤髭は、しまいにゃ『吹き口にが塗ってあるやも知れませぬ!!』とか言って笛を吹きだしゃしないかと心の何処かで密かに心配したくらいです。(ぉぃ

 その後も、笛の音に呪いやら魔性やら篭もっているのでは無いかと晴信や近臣が呟けば


…音色までは調べませなんだ…。


 …駄目だ、勘助の鬼の方向が明後日向いてます。


 この人、由布姫のことになると頭の切れが高速からまわりするようです。(;´・ω・)


 こんな分ではおそらく、勘助には側室に上がる事を決意した由布姫が…尊崇する御館様に、復讐の刃を突き立ててやろうとなど目論んでいる事も、さっぱりと見抜けて居なかったに違いありません…。(;´・ω・)



 山本勘助と同じく智謀の人であり、世界に名だたる名探偵の代名詞として知られるシャーロック=ホームズも、その鋭い洞察眼・推理力が女性だけには通用しない、と嘆きました。



『女性の動機たるや、まったくもって不可解だから推理の立て様も無い始末だ。…実に些細な行動に重大な意味があるかと思えば、大騒ぎの原因が何とヘアピン一本の為だけだったという場合もある。』 シャーロック=ホームズの帰還【第二の血痕】より))


 同じ神算鬼謀でちょっと変わり者(苦笑)同士、そのヘンは相通ずるものがあるのかも知れませんね。
 
 数多の詭計謀計、敵との駆け引きの妙とその真髄を記した『孫子』にも、何トカと秋の空の趨勢を見抜く方法は書いていなかったみたいですね。(嘆息 (ll´・ω・)三3

 御館様と男女の関係の難しさは解し得なかった勘助ですが、その神算鬼謀は戦国武将達には恐るべき作用を発揮します。諏訪統治が一段落した今、勘助は甲斐武田家雄飛の機会を探るべく信濃に赴きます。



 次の敵は、佐久小県の大井貞隆(螢雪次朗)。次週予告では、赤髭一押しの強豪・村上義清(永島敏行)も登場しています。



 次回にはいよいよ、晴信の軍師に任命される向きが強い勘助。…今回の失態、果たして次回では策謀武勲で贖えるのでしょうか。



■三条夫人(池脇千鶴)
 …んーぅ。いやはや、今回の演出は本当に眼から鱗、心は萌え120%でした。(ぉぃ


 "三条夫人"と言えば『京風美人な美しい麗姿とは裏腹に鼻っ柱が高く…京都生まれを鼻に掛けた根性』というイメージが強かった赤髭でしたが…。

 此度の大河『風林火山』において描写された…大名家の正室としての心構えを良く良く弁えた凛と澄んだ気質、慈愛と気品に溢れた凛とした態度で諏訪御寮人に接することが出来る、心の広い三条夫人像というのは、とても新鮮かつ見ていて心地よいものでした。
 
 



 今後、由布姫が物語のヒロインとして地位を着実に固めて行けば…井上靖原作『風林火山』では従来のイメージ通りである『狭量で底意地が悪く、その上存在感が希薄な三条夫人』では、凋落の一途を辿るしか無いだろう…と、赤髭は踏んでいましたが…。




 池脇さんの可憐で物静かな雰囲気が損なわれず、側室に上がる由布姫に晴信の人柄を一心不乱に説き、終いには御家の為に旧怨は忘れて尽くして欲しい…と頭を下げる図なんて、全く想像も出来てませんでした。


 
 それでいて、祝言初夜にも閨に上がるであろう由布姫に自分が実家から持参した笛を託すことで、晴信の想いをたとえ寸分でも良いから、自分に繋ぎ止めよう、その笛を通じて由布姫の心変わりと御館様の危機の予感を感じ取り、それを危惧して困惑する様など…何とも聡明で奥ゆかしいではありませんかッ!!(*,,・ω・)
 
 しかし、そんな気丈夫で可憐、凛とした三条夫人も…勘助だけには、嫌悪にも似た冷徹な表情を隠そうとしません。



 …我が子・龍芳が盲目になった元凶と論ずるのは少々妄執染みた愚考と言えても…武田一門でも特に仲の良かった禰々(桜井幸子)が夫を喪い憤死同然の最後を遂げた事…愛する夫・晴信が妹婿殺しの汚名を被った事、その夫が妹婿の娘を側室に上げるなどと馬鹿げた事を言い出した処々の事件の元凶たるは、良く良く考えれば…全て、この醜い隻眼の悪鬼の仕業です。


 勘助を見下ろし『
せよ。』と言い放つその佇まいには、由布姫に見せる優しい様は欠片も見受けられません。その厳しさには、寒気すら催しました…。



 勘助もその三条夫人の敵意を知ってか、三条夫人を見る目に篭もる感情の暗い憤りの様子が尋常ではありません。まるで剣戟にも似た異様な眼光の鋭さで接しています。m9っ ;・`ω@´)



 結局は、三条夫人の冷たい正論に論破されて由布姫への接見を許してしまい、去り際にはその女中衆に過ぎない萩乃(浅田美代子)にまで『…そなたは礼じゃ!!』とばっさりと切り捨てられます。

 …三条夫人達一行の後ろ姿を見送る勘助の眼に宿っていたのは…由布姫に、そして御館様に敵対する者達に向けられる、ぎらついた敵意しかなかったように見えました。



 …由布姫とのギシギャクとした関係は、晴信が閨房でその働きを高く評価し、その人柄を肯定するという好フォローで修復されている向きもあります。しかし、勘助と三条夫人の関係はもはや、同家内にありながら敵同士に近いものにも、なりつつあります。

 …赤髭的には由布姫以上にラヴィ!!(゚∀゚)な人物である三条夫人。次回からはどういうポジションに移行していくのでしょう…。


■村上義清(永島敏行) for 次週予告編



ひ…ひッ…
じゃなぁあぁぁああぃぃッ!!?( ;・`ヮ・´)そ


 う、うぅ。…あ、あんまりだ…。(泣 1988年大河『武田信玄』で上條恒彦さんが好演した、あの男臭さ溢れる侠気ぶりを体現するあの雄々しい鬚髯がッ…そして、その雄姿に無茶苦茶影響を受けた光栄SLG『信長の野望』での顔グラフィックでもお馴染みの、あの猛々しさに満ちた戦国武将らしい髭がなぁぁあぁぃぃい!!!(男泣

 大体に、毎度毎度大河というのは合戦場の阿鼻叫喚地獄絵図に良く映える、鉄の甲冑具足と最高のマッチングを為す武将達の髭ってものを軽んじすぎますッ!!(血涙)
 …そりゃあ、リアリティを追求すれば折角キャスティングした見目麗しいオットコマエ俳優の顔がどれもこれも髭面になってしまって勿体無いとか区別つき難いとか色々理由があるってのは何となく赤髭にだってわかります、ぇぇわかりますともッ!!


 …しかしですね、当時の戦国武士を指して『やーぃ、髭しーッ!!』と嘲罵すれば、それは次の瞬間に怒りの抜刀による命の遣り取りが始まるような最ッ高の罵詈雑言だったのですよ!!!

 かの豊臣秀吉も主君の織田信長から、薄く侘しい髭を指されて『禿げ』と呼ばれたことを痛く気にしていたといい、後には終生付け髭を欠かさ無かった、などと言う挿話が残るほどに重要な部分なのですッ!!

 そして、当時は勇将の証として戦国武将達が常に蓄えていた鬚髯(しゅぜん。頬髭や顎鬚の総称)が、大河『風林火山』における甲斐武田家の重鎮達には、思いの外目立ちません!!鬼美濃(宍戸開)の髭っぷりはまぁ良いとして…なんですか、あの甘利虎泰(竜雷太)のすっきりした口元!!

 大体、武田家の両職という総領家直臣衆達の筆頭格であり、その勇猛武名は近隣諸国に鳴り響いたという猛将らしからぬ顔だと思いませんかッ!!?(滂沱。

 だいたいの話、戦国武将が髭を置かなくなったのは元和の頃、豊臣家も滅び去り戦国武士達の時代も過ぎ去った江戸初期に、名宰相として名高く、江戸幕府の大老にも就いた土井利勝(どいとしかつ)が『土井利勝殿って、権現様に似てないか?』と噂された事に端を欲して云々…(以降、長々と薀蓄とも愚痴とも取れぬ与太話が延々と続く)


 …失礼、取りしました。(ぉ (;,,・ω・)


 次週予告編でちらっとだけ映った眼光の鋭い人物、真田幸隆の『村上義清』と言う台詞に合わせて登場した人物こそ、赤髭が強く押す北信濃の雄・村上義清です。

 武田信玄に二度に渡って煮え湯を飲ませ、多くの家臣を失わせた歴戦の戦国武将であり、ある意味上杉謙信以上に信玄にとって宿敵と言っても過言ではない…一癖も二癖もある人物です。

 彼と甲斐武田家の闘争の歴史を語るにあたって、外せない人物である真田幸隆やその家臣である春原(すのはら)兄弟、そして義清の側近である楽巌寺雅方(がくがんじまさかた。)や笠原清繁(かさはらきよしげ。戦国大河の常連・ダンカンさんが配役。)も登場が予定されていますし、彼と晴信との戦いは結構な話数を裂いて語られるかもしれません。

 永島敏行さんの、獲物を狙う鷲の様な鋭い眼光が目を惹くこの人物の今後の活躍、赤髭にとっては期待大ですッ。

2007年大河『風林火山』第二十回 軍師誕生 感想と解説





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