2007年大河『風林山』   - 第二十四回 越後の龍 -


さて、それでは引き続き…本格歴史硬派の大河『風林火山』、第二十四回『越後の龍』の感想解説をお送りいたします。
 前回『河越夜戦』で劇的に変化した関東情勢、火縄銃の狙撃を受けて倒れた勘助という急展開の一方、武田晴信率いる甲斐武田家では由布姫が待望の男児を出産し、甲斐武田家と信濃諏訪家を橋渡しする新たな命を授かります。

 しかし、その一方では晴信の心に暗く深い因果の芽を植えつけることになる事態が発生、それを煽るように佐久郡では、大井貞清ら反武田家豪族が蜂起。
 かつて甲斐に君臨した暴君・武田信虎の様な闇を心に芽生えさせた晴信は家臣達の宥和進言を退け、強硬路線で敵対するものを皆殺しにすると宣言。順風満帆だった甲斐武田家に不穏な波が起こり始める。…果たして、その小さな波紋がどのような影響を与えるのか。

それでは、御一緒して頂ける皆様の御時間を少々拝借。 。゜+. m9っ;・`ω・´)っ 。+.゜

■武田晴信(市川亀治郎)feat.甲斐武田家臣団
 『御館様は、生来「人の情けこそ大事になさる御方と心得ておりました。…勘助が居なければ、御館様は早くにけていたかもしれません。』

 年長の重鎮達や家臣団に…それどころか、由布姫にまで舐められている。『恨みを捨て、大望を得て自身の新たなる道』を見つけ、精神的に成長した勘助と違い…晴信は『未だ挫折を知らぬ青二才』のまま。屈辱に馴れていない、敗北を経験していない若き虎には、側室や老臣達の評価は癪に障ったようです。

 甲斐の領民・家臣団に重い賦役を課し、人への情けを軽んじたばかりに民衆や家来達からの信頼も家族の愛も失い、果ては国すら失った先代・武田信虎(仲代達矢)を見て成長し、その父の暴虐を由としなかったが晴信の眼が由布姫の言葉を機に、冷酷非常な光が宿り始める。

 しかし、そうして晴信が成長していくに従い、戦国の世に甲斐武田家の総領として数多の合戦に勝利してきた晴信にも、ある種の油断が芽生えていく。…関東管領上杉憲政の惰弱な器にも舞い降りた大敵の顎…そう、慢心です。

 父・信虎もなし得なかった信濃切り取りを成功裏に治め、今川・北条家といった近隣諸国とも殆ど被害を出す事無く鋭敏な外交術で乗り切ったというのに、あの慎重な年寄り達はまだ自分を武田の若殿だと思っている。
 幼少の頃から傳役として補佐してきた板垣信方(千葉真一)はまだ、自分を子供のままの武田太郎だと思っている。果ては、由布姫までが『勘助が居なきゃ今頃負けていた』などと思っている。

『…儂は…左に思われていたのか…。( ;・`ω・´)

『人への情け』はかくも人を軽侮する。
(…仇も敵だが、けも敵だ・・・!!)
 
 情けで敵を味方とする事は出来ない。情けは返って敵に無駄無用な自信を深くさせるばかりだ。強硬な時に柔和であっては、どうにもならない。

 …そんな風に考えたのでしょうか、何やら晴信の立居振舞いが、かつて恐怖で甲斐国を支配した先代・信虎のそれに酷似していきます。教来石景政に『ようしたー…。』と賛辞の言葉をかけた声音までもが。
 内山城を囲む軍議で『敵将・大井貞清に腹を切らせれば、この戦は終わる。』と遠まわしに降伏勧告、敵将切腹の和議をと進めた甘利虎泰(竜雷太)に発した重厚な一言。

ぁ甘利ぃ。…また、残党をかすのか?

板垣、小山田信有といった先代を知る宿将ですら降伏勧告を押す中でも、晴信は頑迷なまでに力攻めを敢行。

いかに謀略よって敵を下しても…生き残った者が居れば、謀叛の手は跡を絶たぬ…。…一人もかしてはならんッ!!!

 いくら甲斐の虎とあっても『挫折を知らない青二才』の晴信。自信を深め慢心に奢れば知恵の鏡は曇り、人の心も見えなくなり、孫子の兵法も用を為さなくなる。

 おそらくこの悲劇が、これから待ち受ける多くの悲劇へと繋がっていくのでしょう…。

■真田幸隆(佐々木蔵之介)
 『関東軍勢百万あれど、男は一人も居ない!!』と大阪夏の陣で気勢を吐き、平成の現代になっても圧倒的人気を誇る不撓不屈の名将・真田幸村。

 その祖父である真田幸隆が長らくの亡命生活から、領主の座に返り咲きました。いつまでもうだつが上がらない関東管領上杉家を見限って怨敵である甲斐武田家を頼った途端に城付領主へと大抜擢、不惜身命の六連銭軍旗を伴っての入城です。

 この後、信濃先方衆(しなのさきかたしゅう)の筆頭として勘助に負けず劣らずの大活躍をしていく幸隆ですが、どちらかというと智謀策略に優れ老獪な戦国武将というイメージのある彼を、若くて甘いマスクの佐々木蔵之介さんがはつらつと演じていますが…

 これが実に新鮮で良い。( ・(,,ェ)・)b!!

 赤髭は典型的な保守派戦国歴史Fanなので、イメージとかけ離れた武将像を演じられるとたいてい嫌悪感を持つのですが、佐々木さんの真田幸隆にはすんなりと感情移入が出来ました。親族の反対を押し切り、忍芽()や晃運字伝(冷泉公裕)の支援を受けて力強く真田家を復興させていく若き総領。その心模様が豊かな表情やそれを物語る視線に出ています。人気俳優さんやジャがつくどこかの男前集団には無い演技力の深さ。

 確かに視聴率はだいじかも知れませんが、由緒と歴史のある戦国大河ドラマ、こういった実力派俳優さんをしっかり取り揃えて欲しいものです。今年の大河は…――大地康雄さんも居なくなっちゃったし、来週からは誰を基点にして視聴すればよいのやら…。( =(,,ェ)=)

■長尾景虎(Gackt)
 あと一話で折り返し地点の二十五回、満を持してのGackt登場。
今回は真田幸隆の語る越後情勢の上だけでの登場、軽い触り程度ですが…――燃え盛る炎が赤く照らす障子に映る影法師、火の粉を従えての登場シーンは圧巻。

 中性的な美貌を古誂えの鎧具足で着飾り、強い意志を秘めた視線で一点を睨む表情はとても大河初出演とは思えない迫力でした。
 当事は『仮にも守護代長尾家の武将が最前線切って、刀片手に暴れまわるって無いだろ( =(,,ェ)=)』とか思ったりもしましたが、常識では考えられない行動を取る不思議ちゃん毘沙門天な景虎のこと、別段ありえない描写でもありませんし…何よりも、そのビジュアルと存在感が凄い(汗。

 私の中では上杉謙信と言えば夏八木勲か柴田恭平なのですが、Gacktもそれに食い込める位置には来そうです。四年振りに再評価することになる俳優としての顔、今後の展開に期待したいところ。

2007年大河『風林火山』第二十五回 非情の掟 感想と解説





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