2007年大河『風林山』   - 第九話『勘助討たれる』 - 


 さて、先週の更新は『山本勘助と戦国を語るclassic』と称し、四年前の稚拙な(今も似たようなものですが)文章をそのまま掲載するという暴挙に出たわけですが…当時のログを読み直していると、色んなことが思い出されます。

 たとえば、「大河『風林火山』では、放送が始まってからも一部主要キャストがなままだった』ということ。

 これは若泉久朗プロデューサーの方針だったらしいですが、これには随分と気を揉まされたものです。



 よりにもよって、武田信玄にとってある意味最強の敵だった『ある人物』と、越後の龍・上杉謙信の軍師である宇佐美定満役を伏せたままだったのですから。特に宇佐美定満については当時、どんな俳優がキャスティングされたのかでいろいろと噂が飛び交いました。

 かくいう私も

どうやら宇佐美定満はあの寺尾が演じるらしい。

 大河『天と地と』では、宇佐美定満は寺尾の親父さんである宇野重吉が演じてたし、それを意識しての配役なんだって。


 という噂を信じきってしまい『うはっ、黒澤映画の常連二人目来たーーーッ!!!』だなんて、大喜びした記憶があります。


 結果的に宇佐美定満には、今は亡き名優・緒形拳さんが配されたわけですが…寺尾聰さんの燻し銀な老軍師姿も、是非拝んでみたかったものです。( ・(,,ェ)・)


 ―…と、いうわけで。今夜は戦国与太噺に再び『山本勘助と戦国を語るclassic』を変則採用。2007年当時、赤髭が配役不詳のために気を揉んでいた『武田信玄最の敵』に関するコラムに一部再執筆を加え、再掲載致します。


 第九話の時点ではまだ名前だけしか登場していなかった『ある人物』、武田信玄最強の敵とは誰なのか。

 当時を知っている方は懐かしんで、今宵初めて御覧になる方は今後の大河『風林火山』復刻版DVDを御覧になるにあたっての資料として御一読下さいませ。



 例によって、DVDの内容だけを知りたい方は山本勘助の凛々しい顔が目印の"しおり"まで読み飛ばして頂いても結構です。それでは、皆様の御時間を少々拝借。


戦国与太噺。導入部、となぜ素直に命名出来ない。(画像は斬?スピリッツより)

 さて、当ブログでは大河『風林火山』完全版DVDの第八話までを御紹介の上、様々な視点からガイデッドしてきたわけですが…第九話『勘助討たれる』が放送された当時、赤髭期待の『ある人物』にどんな俳優さんがキャスティングされるのかは、未発表のままでした。(2007年3月4日当時)


 …甲斐の虎・武田信玄とその宿敵である越後の龍・上杉謙信、その龍虎が総計五回にも渡り血闘を繰り返すことになった『川中島の合戦』、その大本の原因となる銃爪であり、信玄・謙信の歴史を語る上でも超重要な人物。



さて、その人物はどんな戦国武将なのかと言いますと…。



@武田信玄の生涯においてたった二度しかない、敗北を喫した相手である。

 上杉謙信は武田信玄に負けはしなかったが、信玄を命からがら退却に追い込むような大勝利も挙げていない。
 この人物はその大勝利を二度も達成し、信玄をも悲嘆させるほどの大敗を喫させている。


 Aその人物は、信濃での対武田戦において、第九話現在で大河『風林火山』に登場している武田家の重要人物を二人も討ち取っている。

Bその人物は後に武田信玄に領地を追われて越後国に亡命し、上杉謙信に泣きついた。
結果、謙信は彼の領土を取り戻してやる、という名目を理由にかの名高い『川中島の合戦』を始めることになった。

 Cさらに、その人物は川中島の戦いで上杉方の先陣を斬って勇猛果敢に八幡原を駆け巡り、何と『武田信玄が絶対の信頼を置く人物で、彼が討ち死にしなければ後年の武田家滅亡も無かったのではないかと言われるほどの超重要人物』を討ち取るという大武勲を挙げている。

D戦国時代のかなり初期から『長槍足軽』による組織戦の重要性に気づき、それを編成することで甲斐武田の騎馬軍団に幾度も苦渋を舐めさせた。また、自身も勇猛な武勲を誇る威丈夫で、槍の名手だった。

 E彼と彼の嫡男は二人揃って『目の醒める様な美男子』だったらしく、"実は性だった"上杉謙信は彼に惚れちゃったがために川中島の合戦を引き起こした、というトンデモナイ逸話がある。

 実際、彼の嫡男は上杉家にとって外様の客将であるはずなのに謙信から寵愛を受け、後に上杉家中でもNo.2という重要な位置にまで大出世している。


F88年大河『武田信玄』では上條恒彦さんが武勲誇り高い田舎武将振りを熱演、その後の『彼』のイメージを揺るぎ難い物にしました。



 …などなど、ただ『脇役。』という言葉でで片付けるには惜しい戦歴と魅力的なエピソードの持ち主なわけですが…



何、まだらない?( ;・`ω・´)


 …――・まぁ、一般の知名度は無いに等しいような戦国武将なので仕方ないとは思いますが、一端の戦国Fanであるならば、信玄と謙信を語るにあたって絶対に外せない人物です。



 その人物の名は、村上(むらかみよしきよ 1501〜1573 武王丸、左衛門尉・周防守)



 『信長の野望』シリーズをやってる人には『あぁ、あの最初のほーのシナリオで信濃国の大名やってるけど、すぐ武田家に踏み潰されるて滅亡するヤツね。』くらいの印象しかないかもしれませんが、義清は北信濃に割拠した群雄の一人でも『信濃の総大将』と渾名された歴戦の猛将。


 河内源氏の血統を引き継ぐ村上家の総領でもあり、破竹の勢いで信濃統一を目論む若き武田晴信の前に立ちはだかった大きな壁でもありました。赤髭的は好きな戦国武将の一人だったりします。




 …なお、2007年当時の赤髭は

 "今回の大河では武田家側にも魅力的な俳優さん達が揃ってますし、真田幸隆やその家臣達、その中でも特に『義清の凋落の元凶となったある策略』を演出した春原(すのはら)兄弟が既にキャスティングされていますので、いわゆる『顔の映らない戦国武将』には絶対にならないとは予想していますが…"

"『信玄のやられメカ、あるいは謙信の腰巾着』にならないような、深みのある演技の出来る実力派俳優に是非演じていただきたいと思ってるのですが・・・はてさて、誰が振り当てられているのやら。"

 などとぼやいていたようですが、予想に関しては的中、期待する俳優像は正体が永島敏行さんだっため、ほぼ期待通りの展開になったと言うべきでしょうか。

 この村上義清。大河『風林火山』を今後も見ていくにあたって、覚えておいて損は無いと思いますよ。



ストーリー解説・キャラクター紹介。


■完全版『風林火山』の第九話、全44分29秒。

 今回の時期設定は随分と時間が長く紡がれる。
序盤は晴信の初陣が1536年(天文五年)十一月、海ノ口城落城後には時が進んで禰々の諏訪家輿入れが決まった1540年(天文九年)秋。その後さらに時間が進んで1540年(天文九年)十一月、武田信虎が娘婿・諏訪頼重の上原城へ出向いた場面。そして終盤には1541年(天文十年)正月と表示がある。時に山本勘助、三十七歳から四十二歳。

 "人間五十年"といわれた時代のこと、既に勘助は中年を過ぎ初老の域に。



□1536年十一月。山本勘助(内野聖陽)の冴え渡る軍略により難攻不落となった海ノ口城はついに甲斐武田家の攻撃を撃退した、かに見えた。

 しかし武田晴信(市川亀治郎)の才智により急遽軍を返した甲斐武田軍三百は、戦意を解し休養していた佐久海ノ口城を強襲。
 城主・平賀源心(菅田俊)は無数の槍に突き貫かれ討ち死に、大剛の士・武藤永春(中山正幻)もまた板垣信方(千葉真一)の二刀流に討ち倒される。

 武田軍に占拠された海ノ口城内、屋根裏に潜み武田軍の動向をうかがっていた勘助と平蔵(佐藤隆太)。その視線の先に、晴信と板垣が姿を現す。武田憎しの怨念に駆られた平蔵は弓に鏃をつがえ晴信を狙うが、その矢を勘助は寸でのところで掴む。




 なおも様子を見る勘助だったが、平蔵が再び隙をついて矢を射出。途端に騒然となる甲斐武田軍、足軽が天井板に槍衾をお見舞いするなか勘助は平蔵をかばって一人姿を現す。


 観念したように平伏する勘助、その勘助が平賀軍に入れ知恵をして甲斐武田軍を撃退したことを知った板垣は怒りのあまり勘助を斬り捨てようとするが、晴信がそれを制する。

 『儂が成いたそう』



 制止する板垣。つい先刻、実の父だと思っているとまで信頼を見せた傅役をなおも一喝すると、晴信は勘助の首に刃を向ける。眼を瞑る勘助。


 しかし、晴信の振りかざした刃は寸でのところで止まった。


『偽軍師、山本勘助討ち取ったり!!』


 命を掛けて復讐すると誓った相手の嫡男から死一等を減じられた瞬間だった。


 勝ち鬨をあげ引き上げていく武田軍。これでは生き恥だと、成敗を懇願する勘助に板垣は脇差を一本投げ渡し、侮蔑の浮かぶ表情で言い捨てる。



自ら地獄へ参れ。』

 その後、勘助は平蔵を真田幸隆の下に返し、自分は討ち死にしたもの伝えさせ遁世を決める。

 しかし、怨念に駆られた復讐鬼であったはずの勘助の心を、晴信の刃は確かに一閃していた。凝り固まった恨みだけで動き、己の欲にしがみついていた勘助の首級を。


 かつては"挫折を知らぬ青二才"と嫌悪していた晴信に対し、勘助は言い知れない感情を抱いていた。



 一方、武田信虎は己が八千の兵を指揮して落とせなかった海ノ口城を殿軍三百で陥落せしめた晴信を前に、憤怒とも狼狽ともとれる表情で吼える。

 城に留守居を置かなかったことを咎め、退却してきたことを臆病のなせる業と家臣達の前で面罵し、扇子で打擲まで加える。


 『そちは敵の援軍を恐れたのであろう。城を落とさば城を守り、使いを走らせ、この儂に下知を乞うのが筋道じゃ。…かような料簡も持ち合わせぬとは、この臆病者めが!!』

しかし、晴信は怯まない。


『ありがたき、幸せに存じまする。それがしの拙き戦ぶりをかように重く受け止めて下さり、恐悦至極に存じまする。

 されど、それがしは父上の日頃の教えを身をもって示したに過ぎませぬ。 …武田家の嫡男として、こたびのお叱りは決しておろそかには致しませぬ。』



 毅然かつ平然とした態度で一礼し、威風堂々とその場を立ち去っていく晴信。


 その後姿を、信虎はどこか遠くを見るような視線で見送るのだった。



 1537年(天文六年)二月、武田信虎は駿河守護職の今川(谷原章介)に娘を嫁がせ、甲斐-駿河の盟友関係をさらに強くする。さらに1540年(天文九年)十一月には長年交戦関係にあった信濃諏訪領主・諏訪頼重(小日向文世)には晴信の妹・禰々(桜井幸子)を嫁がせ、次の攻撃目標を佐久郡・小県郡に定めた。

 その年の十二月十七日、武田信虎は諏訪頼重の居館がある上原城に出向き、娘婿は舅と、娘は父との謁見を果たす。頼重は側室が生んだ娘・由(柴本幸)を信虎に引き合わせた。



信虎は暫し言葉を忘れ、その美貌に魅入られる。



 頼重と杯を交わす信虎。その席で、信虎は喜色を讃えた眼で娘婿の顔を見据えている。



『禰々を諏訪殿に託しただけでは、心許無いのう』

「…それは、この諏訪からも人質を出せとの仰せにござるか?」



 信虎はその人質が由布姫であれば諏訪-武田関係を磐石にするとうそぶく。由布姫を側室に差し出せという、無言の苛斂誅求に他ならなかった。





 1541年(天文十年)正月。新年祝いの席で、武田信虎は次男・信繁(嘉島典俊)へ最初の杯を与えた。長男である晴信を差し置いて次男を先んじるのは晴信の優位を否定するもの。



 さらに信虎は、晴信を駿河守護職・今川義元へ行儀見習・軍法修行のため出向させる旨を宣言する。もはやそれは、晴信を家臣達へ宣言したことに他ならなかった。

                    


 新年が明けて間も無く、甲斐は激しい飢饉に見舞われた。そんな苦境の中でも信濃出兵を辞さない信虎の暴虐、荒んで貧窮にあえぐ国内を見据えていた晴信はある決意を固め、傅役の板垣信方にそのことを打ち明ける。

儂は、父上に反を起こす。…戯れではない!!
 このまま黙しておれば、儂は甲斐から追われる。
 板垣、儂に従うか、父上に従うか…二つに一つ!!』

『儂に従わぬのならば…ここで、儂を斬れ。』

 
 甲斐の親子相克は風雲急を告げる激動の展開へ動き始める。

 板垣は晴信の計画を水面下で秘密裏に進める。この謀反で鍵を握るのは、信虎の娘婿であり晴信の義兄弟でもある駿河の今川義元。

 板垣の密書を携えた河原村伝兵衛(有薗芳記)は、駿府の路傍で勘助と遭遇する。

海ノ口落城から五年。晴信に怨念と復讐心を討ち取られた勘助は、無為で空虚な日々をすごしていたのだという。


 そんな勘助にも、甲斐武田家が巻き起こした新たな時代の波が迫りつつあった…。




■武田晴信(市川亀治郎)
 大河『風林火山』が初見だった2007年、亀治郎さん演じる晴信を視て

『…何ていうか、演技や発声が大仰って言おうか…これじゃあ剃髪して、諏訪法性の兜に袈裟掛けて具足をつけてたとしても、武田信玄らしい厚な雰囲気は醸し出せないんじゃないのかなぁ。( ;・`ω・´)

だなんて、不安に思って居たものです。

 しかし、こうやって完全版DVDを見直してみると。

 序盤の海ノ口城内でのシーンで板垣信方に信頼を置き、『父親だと想っている。』との言葉をかけた時の穏やかな表情、屋根裏から降ってきた(何)勘助を成敗しようと刹那の内に刀を抜いた板垣を一喝する言葉の鋭さ・威厳のある表情は、市川さんが大河初登場だということを忘れさせるほどの存在感があります。

 "こってりした演技"と放送当時は絶賛された雰囲気ですが、その表現法は言い得て妙。

 まぁ、演技がちょっと濃過ぎるっていうか、表情に出過ぎの感もありますが…。

 
■武田太郎(加藤清史郎)


 こども長、なにやってる!? ( ;・`ω・´)そ

 09年大河『天地人』で直江兼続の幼少期時代を好演する二年前のこと。清史郎くんフィーバーが起きた頃『なぁんか聞いたことがある名前だぁな』とか思ったら、道理で…。

 当時では何でもない子役だったわけですが、時代の流れってのは本当にわからないもんです(苦笑。


■諏訪頼重(小日向文世)
 諏訪は1540年(天文九年)当時で二十六歳。信濃国諏訪郡の領主で、諏訪大社の大祝(おおほうり/諏訪大社の筆頭神主)を代々輩出した諏訪家の総領。

 祖父・諏訪頼満(すわよりみつ 1480〜1539  宮法師丸・碧雲斎)は一度は滅亡の淵に立たされた諏訪家を蘇らせる手腕を発揮し『諏訪家中興の祖』と呼ばれた名君。信濃守護職・小笠原長時や甲斐守護職の武田信虎とも激しい勢力争いを繰り広げた。

 1530年(享禄三年)に頼重の父・頼隆が三十五歳で急死したため頼重が嫡孫として諏訪家世継となり、1535年(天文三年)には長年の敵であった甲斐武田家と和睦。

 1539年(天文八年)に頼満が腫れ物を病んで亡くなったため、頼重が家督を相続、
1540年(天文九年)には武田信虎の娘・禰々を正室に迎え、甲斐武田家と同盟関係となる。

 このことで後顧の憂いを無くした頼重は小県郡などに軍を向けるが、同年に諏訪郡を襲った台風や翌1541年(天文十年)の大飢饉で軍事力が低下。

 戦線が膠着し財政悪化に陥った頼重は諏訪大社に献金を要求するが、これが社家衆から恨みを買い、叔父の満隣・満隆ら年長の一族衆からも信頼感を損なう結果を招いた。



 上記の説明から読み取れる通り、柔和で統率力に欠けたお人好しの若殿。小日向さんの好演で、何だか頼りない雰囲気の気質が良く出ている気がします。

 信虎に『由布姫を妾に差し出せ』と暗に要求された時の『ちょ、ちょっと待ってくださいよお義父さん、娘婿の娘を妾にだなんてそんな御無体なッ。(;´・ω・)』ってな感じの複雑な胸の内を眉間のシワと瞳だけで如実に物語った演技力も素敵ですが、何が良いって…あの頼りなさそーな、静かな声色が堪りません(苦笑。

 彼がどういう運命をたどるかは、初見ではない今となっては百も承知なのですが…うん、改めて見直してみて『初登場時から既に、薄幸ぶりが滲み出てたんだ。』と再確認できた気がしました…。


■由布姫(柴本幸)
 今回はほんの顔見せ程度で終わってしまったので、何とも言えませんです。(汗


  可愛さにかけては三条夫人(池脇千鶴)ラヴィ(゚∀゚)!!なのは譲れませんが、柴本さんも ある一定の角度限定でなかなかの 
可憐さを見せてくれます(暴言。
 第一印象は悪くありませんでした、後に三条の恋敵になることを差し引いたとしても。

 眉を太めにしたのは凛とした意思の強さ的雰囲気を出すための工夫だったのかも知れませんが、うーん。

 もうちょっと露出時間が増えないと、演技とか萌えとかが読み取れません、ハイ。





■今週の風林火山
【註・あくまで歴史痛の観点から視聴した個人的感想です。】

■総合 ★★★★☆ 武田信虎-晴信の屈折した親子関係がついに明らかな破綻を迎える。同時に、いままで甲斐武田家憎しという怨念だけで動いていた勘助がその束縛から解放される、重要な転換期を迎える回。今回初登場の由布姫・諏訪頼重・禰々の顔ぶれも後々の物語に大きな波紋を投げかける重要人物。要check。

■戦闘 ★★★★☆ 千葉さんの超鋭い動きだけでおなかいっぱいです。平蔵が射掛けた鏃を一発で払い落としたり、勘助の首筋を確実に狙った剣閃は一見の価値あり。

■俳優 ★★★☆☆ 柴本さんの凛とした可愛さや小日向さんの頼りなさ120%な好演も高ポイントですが、やっぱり一番の肝は仲代達矢さんの表情。海ノ口城をほったらかしてきた晴信に憤怒して叱咤するときの顔と、自分の説教をうまくかわされ毅然として帰っていく晴信の後姿を見送ったときに一瞬だけ垣間見せた何とも言えない憂いを帯びた眼、そして『事実上の廃嫡宣言』をした直後、静まり返った家臣団や晴信に投げかけた『ん?( ・(,,ェ)・)』という、心底不思議そうな視線。やはり『世界のクロサワ』が抜擢した名俳優。顔だけで色んな意味合いの演技を見せてくれます。

■恋愛模様 ★★★☆☆ あの武田信虎が大井夫人に惚気るのは、あとにも先にもこの回だけ。そのひねくれた愛で方は、ある意味必見かも知れません。信虎が由布姫に見蕩れて、側室として要求するのも恋愛といやあ恋愛なのでしょうけれども…。

■役立知識 ★★★☆☆ 海ノ口城内では立派な胴巻鎧を着けていた平蔵が、矢崎十吾郎・ヒサ親娘に発見された時には平服姿でぼろぼろになってたシーン。多分、城から落ち延びる時に平蔵自身が脱いだか、誰かに盗まれたのでしょう。でなきゃあ、平蔵程度があんな綺麗な鎧を着てたら野党か山賊に殺されて剥ぎ取られちゃいます。歴史考証を良く考えない民放ならば鎧姿の平蔵で再登場させたところでしょうが、そのへんはさすが本格歴史大河。

■歴史痛的満足度 ★★★★☆ 『兵は詭道也』という、大河『風林火山』をある意味象徴する言葉が今回はじめて詳細に説明される。以前に御紹介した孫子の始計篇の一説を読み上げる晴信の言葉は、騙し討ちや約定の反故で勢力を広げてきた信虎の胸に痛烈な刃となって突き立ちます。…まぁ、後に晴信も晴信でその手の騙し討ちはこれでもかってくらいやってのけるんですけども。


■次回は第十回『晴信謀反』。『生き延びよッ。…かならずや…生き延びよ!!』と声を震わせる真田幸隆、『父上を追放致します』と母・大井夫人の前で宣言する晴信。晴信の謀反に対し心の揺らめきを隠し切れない甘利虎泰・教来石景政、そして『晴信様は、この儂が斬る』と衝撃的な台詞を吐く板垣信方。最後は、ここ最近で急増した魅力的過ぎるキャラクター達の前に影が霞みまくっている勘助の素敵な笑顔。次回も急展開てんこもりの予感。



 風林火山紀行は長野県諏訪市・下諏訪町/茅野市/岡谷市。今回初登場した由布姫の故郷・諏訪大社の上社本宮と御柱、諏訪大社・下社秋宮の威厳ある姿、武田信虎・諏訪頼重が和睦した際に鳴らされたと伝わる『さなぎの鈴』、その信虎が今回訪れた上原城跡・諏訪市館跡、井上靖原作『風林火山』で由布姫が暮らした小坂観音院こと龍光山観音院や諏訪湖の眺めなどが紹介されています。

2007年大河『風林火山』第十話『晴信謀反』 感想と解説





■前に戻る    トップへ戻る